23 入京
開国以降、新たな都、東京を中心として急速に文明開化の進む日本にあってなお。
この古の都は、依然としてかつての趣を色濃く残していた。
「やっと着いたねー」
変わらぬ故郷の街並みに、操の足取りはより一層軽い。
もとより元気娘ではあるが、帰ってきたのだという安堵感からか、これまでの旅の疲れなど一切感じられなかった。
先程から黙したまま歩く剣心とを尻目に、ウキウキと踊るような足取りで駆け出す。
「緋村、、こっちこっち!」
そう言って手を振る操にが軽く手を挙げて応じるのを、剣心はどこか遠い意識の中で視界に納めていた。
十字傷の刻まれた左頬には絆創膏。
気休め程度のごまかしではあるが、何もわざわざ名札をつけて歩くこともないだろうと自分で貼ったものだ。
十年ぶりに見る京の街並みはあまりにも変わらなさ過ぎて、否応なく体の奥深くに染み付いたモノを呼び起こそうとする。
かつてはここで、地獄絵図のごとき惨状が夜ごと繰り広げられていた。
刀が血に濡れぬ日はなく、数え切れぬほどの命を奪い続けた日々。
この場所には、己の亡霊がいまだ息づいている―――。
「剣心」
「―――お”ッ!? ろぉ〜」
背後から声が聞こえたと思った瞬間。
出し抜けに後頭部を襲った鈍い衝撃に、剣心は振り返る間もなくくるくると目をまわした。
明滅する星に、意識は一瞬遠のいてから、半ば無理やり現実へと引き戻される。
鈍く痛むコブの膨らんだ後頭部を押さえて後ろを見やってみれば、そこには呆れたような表情を浮かべたが、腰に大刀を差し直しつつ立っていて。
いつの間にやら背後に回っていた彼女が、己の刀を鞘ごと無造作に引き上げて、その柄頭を剣心の後頭部へ直撃させたらしい。
「いきなり何をするでござるか、………」
ろれつの怪しい口調で抗議すれば、はこれ見よがしに溜め息をついて見せ、
「それ。せっかく隠してても、そんな目つきしてたら意味がないよ」
自分の左頬を指しながらそう指摘した。
言われた剣心は一瞬ぽかんとして、数度目を瞬かせる。
どうやら過去の残影に捕らわれて、自分でも気づかないうちに鋭利な気配を漂わせていたらしい。
剣心は絆創膏の上から頬を撫でると、バツが悪そうにおろと呟いた。
「ま、刀が折れてることも拍車をかけてるんだろうさ。脇差でいいなら私のを貸すけど」
すいと歩き出したが、横に並んだ剣心に自分の脇差を示してみせる。
しかし剣心は苦笑を浮かべて首を横にふった。
「いや……、やめておくでござる。脇差なんて、この十年触ってもいないから、使えるかどうかも怪しいでござるよ」
それが言いわけであることなど、にも剣心自身にすらわかっている。
けれどは何も言わず、そうかとだけ返した。
逆刃刀が剣心にとって、一種の箍のようなものであったのだとは、言われるまでもなく容易にわかることだ。
それなのに脇差とはいえ真剣をすすめた自分は、剣心に何を求めているのだろう。
はふと浮かんだ己に対する疑惑をおくびにも出さず、人々の行き交う往来を何食わぬ顔で進む。
自分の望みはただ一つのはずだ。
迷うことはない。迷うことなど許されない。
何のために今まで生き延びたのかと、問う声は己のものではないのだから。
あの夢の、残滓にも似た幻影が常に脳裏に染み付いている。
―――ワスレテシマッタノカ?
響く声が伴うものは、一切の侵食を拒む鮮烈な闇と赤。
巧妙に装われた、のなんでもない表情の裏に隠されているものが何なのか、知る者はここにはいない。
隣を歩く剣心ですら、微妙な違和感を感じこそすれ、その正体を知るまでには至らなくて。
ただ、彼の問うてくる視線を感じていながら、は素知らぬ顔をする。
本来なら、あえて告げずとも、遠からず知ることになるはずだった。
けれど今、状況は目まぐるしく変化して、一本しかなかったはずの道は二つに分かれて伸びている。
どちらを選ぶのか。
どちらがより、最善のものなのか。
わかっていながら、その新たな道を選ぶことに戸惑いがあることも事実。
そんな逡巡をすることすら度し難いと、自覚しているのに。
犠牲の少ない新たな道を選ぼうとしている、己の甘さに虫唾が走る。
犠牲とは即ち、己にとっての犠牲なのだから。
―――安楽な道を求めることなど、許される身だと思っているのか?
「もー、二人とも遅いったら! なぁにぐずぐずしてんのよ!」
己を卑下する思考と共に、の面に嘲笑が我知らず浮かぼうとした時、その視界に先を行っていたはずの操がひょこりと割り込んできた。
のんびりとした剣心との足取りに焦れて、引き返してきたらしい。
不意をつかれたは僅かに目を開き、次いでごめんと微笑む。
古巣に戻ったことで調子が狂っているらしいのは、なにも剣心だけではないようだった。
その剣心も今はすっかり調子を取り戻し、操の言葉に「おろ」などと呟いている。
は意図せず流れようとする思考に蓋をして、再び現実の世界でその脳内を満たした。
「二人とも、もちろんあたしの家に寄ってくでしょ? 道中ちょっとは世話になったわけだし、招待してあげる」
先程までの焦れはどこへ行ったのか、操はたちを振り返りながら嬉々としてそう切り出す。
どうやら彼女に先頭を任せるうちに、知らぬ間に件の家へ足を向けていたらしい。
もうすぐそこだと言う操。
「ほら、あそこに見える料亭よ」
「いや、操殿。せっかくでござるが拙者たちは………」
すっかり浮かれきっている操に、剣心が申し訳なさそうに口を開いた時だった。
ピピピピィ―――ッ!
まさに空気を切り裂くような警笛の高音。
道を行く人々は何事かとその騒音を振り返るが、警笛を鳴らされた当人たちにとっては耳慣れたものだった。
ちらりと背後に視線をやって、遠い人ごみの合間に制服特有の色合いを見つけて顔を引きつらせる。
次いで聞こえてきた警告は決定的だった。
「―――そこの黒いお前! 廃刀令違反で逮捕する!」
どこへ行っても代わり映えのしないその台詞に、やれやれと苦笑する暇もあらばこそ。
はすぐさま踵を返し、剣心と操に背を向ける。
「?」
「どうやら見つかったのは私だけらしい。操ちゃんの家で落ち合おう。後で行く」
簡潔に必要なことだけを言い置いて、は返事も聞かずに駆け出した。わざわざ往来の中央に向かって。
警官の叫んだ「黒い」というのは、間違いなくの着ている着物を指している。
そうでなければ、赤毛だとか緋色だとか、明るい色彩をした剣心の特徴を叫ぶはずだからだ。
どう考えても目立つのは剣心のほうなのだが、今回はどうやら距離が離れていた上に人ごみに隠れて剣心の姿が見えなかったらしい。
捕まえるつもりならば、もっと近づいてから警笛を吹けばいいのにと、追われる側の身でありながらは思ってしまう。これだけ離れていては逃げてくれと言っているようなものだ。
しかしせっかくのご好意――というわけでは決してないだろうが――なので、は大いにそれを利用させてもらうことにした。
二人同時でないのなら、片方には所在を定めてもらっていた方が後々楽というものだ。
探す手間が省ける。
ところが剣心の方は納得していなかったようで、囮になることを勝手に決めて駆け出していったを追いかけようとしたのだが、突然の事態に慌てた操によって、すぐ脇の路地に蹴り入れられてしまった。
その数秒後に、警笛を吹き鳴らす警官が素知らぬ顔をした操の前を走りすぎていく。
その目標は、人ごみからわざと黒い影をちらつかせている逃亡者。
「もー、だから刀なんとかしろって言ったのに」
京都へ入る前に時代遅れの剣客二人に向かって言った諌言を、操は誰に言うともなく繰り返したのだった。
*
―――転じて、時は僅かにさかのぼる。
ちょうど、と剣心がようやく京の街に足を踏み入れ、浮かれる操に急かされながら、どこへともなしに道を進んでいた頃。
常とは異なる喧騒が、往来の一角を占拠していた。
道行く人々は足を止め、沈静に向かいつつある騒動の元凶を一目見ようと人垣を作る。
物見高い者などは最前列に居座っているが、大部分の人間はちらりと見ただけで、面倒事はごめんとばかりにそそくさと退散して行く。
その人々の注目を浴びる中心で、何をするともなく佇んでいる男があった。
否、何もしていないわけではない。
彼はつい先程、二、三人の徒党を組んで往来の邪魔を働く不貞の輩を取り押さえたばかりだ。
今はただ、事後処理に励む部下たちを見守っているのである。
捕縛してはいるものの、元気の有り余っている犯人たちを連行し、騒ぎに群がる烏合の衆を解散させ、日常生活にもどるよう少々高圧的な態度ながらも人々を促す。
全て彼らの立派な職務。
そう、つまるところ彼らは警察官なのである。
「篠崎警部補殿! 捕縛、完了いたしました!」
「ああ、ごくろう」
年のころは三十代前半とおぼしきその男は、事態の収拾が終息に向かったことを報告に来た部下に向かって頷いた。
ぴんと伸びた背筋に、どこかしら細く見える風貌。
部下に対した口調は厳し気なものだったが、顔つきは穏やかと評しても差し支えなく、けれど脆弱というわけでもない。
どちらかといえば武官というよりは文官的な、そんな印象を持つ男だった。
おそらくは、禁欲的な堅固さをかもし出す濃紺の制服が、彼が持つ本来の気質を若干歪めて見せているのだろう。
けれど事実、執務的な方面でも十分な働きをしている自覚のある彼は、あえてそれを訂正しようとは思わない。
成すがまま、思われるがまま。
結局、それらによって己の立場や存在が変質することなど有り得ないと知っている。
たまたま通りがかりに出くわした騒動もすっかりおさまり、辺りに再び日常の流れが戻ってきたのを確認して、篠崎は少し前と同じように京都の街並みを歩き出した。
「久しぶりの肉体労働だと、なかなか新鮮だったな」
「は」
自分の斜め後ろの位置を常にキープして付いてくる部下は、堅苦しく相槌をうつ。
巡回のため、数刻前に署を出てからというもの、何度となく耳にした声だ。
しかし上司の方は、そんな上下関係などまったく意に介していないようだった。
まるで遊山でもしているかのように、ゆるゆると足を進めている。
どう見ても、巡回を行っているようには見えない。
「なぁ、村上君」
「なんでありますか」
ふと、思いついたように口にした呼びかけに、律儀な新人部下は間髪いれずに返事を返した。
初めは苦笑もしたその忠実さに、今ではもう指摘する気も起きない。
篠崎は、それなりに客の入っている小間物屋の店先で足を止める。
そして何の気なしに、陳列された品々を見やった。
「いつも思うんだがな」
「はい」
独身の身には決して縁のないであろう、鼈甲作りの櫛を手にしてみたり。
ふむ、思ったよりもいい品だ。
「その警笛、吹かずに済ませるわけにはいかないのか?」
「………は……?」
背を向けたまま問われた村上巡査は、質問の意図を理解するのに若干の間を要し、しかしなんとか口にした返事には疑問符がついていた。
彼の困惑の大元である上司は、櫛を元に戻すと今度は隣の手鏡へ目を移している。
買うつもりなどさらさらないだろうに、もっともらしく顎に手を当てて吟味するような素振りまで見せて。
「逃げてくれと言っているようなものだと思うんだが。ピーピー吹き鳴らす前に、黙ってふん縛ってしまえば面倒も少なくて済むだろうに」
独り言のようなそれを聞いて、ようやく彼は上司の言わんとしていることを理解した。
きっと、先程演じた捕り物のことを言っているに違いない。
得心した村上巡査は、店の冷やかしを続ける上司の後ろに律儀に控えながら、その背中に向かって口を開く。
「しかし犯人確保の際に警笛を鳴らすのは決まりです。それに、我々がこの警笛を鳴らすことによって、周囲の民間人に危険を知らせるという役目も………」
警官の職務に忠実な新人の彼は、警察学校で教えられた文句をそのまま、その生真面目な性質を遺憾なく発揮する口調で述べて見せる。
しかし、返ってくる返答の種類をおおむね正確に予想していた篠崎は、予想を裏切らない部下の言葉に何の感銘も受けた様子はなかった。
相変わらず背中を向けたまま、どちらかといえば意識は商品を吟味する方に向いているように見える。
「だからって、なにも十メートルも離れた場所から鳴らさなくてもいいだろうに」
巡回の途中、先程の騒動に鉢合わせた時、今と同じように斜め後ろに付き従っていた部下が取った行動を、篠崎はやんわりと、しかし確実に指摘した。
漠然と、何かしらの騒動が起こっているとしかわかっていない状態で、これ見よがしに警笛を吹き鳴らしながら駆けつけることは、どう考えても合理的とは思えない。
しかし、これは警官として当然の行為であって、決してこの村上巡査が常識知らずなわけではなかった。
むしろ、このことに疑問を抱く篠崎の方が異端というべきだ。
警笛を鳴らすことにより、周囲の人間に警察が来たことを伝え、円滑に職務を遂行できるよう、無言のうちに要請している。
それは同時に人々に危険が身近にあるのだと警告することにもなり、まったくもって道理に叶っているように思えるのだがしかし、人によってはどうしても、それが持つ欠点を突かずにはいられないのだ。
つまり、警笛によって、捕まえなければならないはずの犯人たちにまで自分たちの到着を知らせてしまうという、最大にして致命的と思われる欠点を。
せめて包囲してからにすれば……という篠崎の言は、今のところ聞き入れられている様子はない。
おかげで先程も、到着前に逃げ始めていた犯人たちを追って、無駄な労力を強いられてしまった。
決して職務に不満を言うつもりはないがしかし、少しでも効率よく事を進めたいと思うのは間違っているだろうか。
「逃げる隙を与えなければ、無用な被害の拡大も防げると思うけどね。例えば―――」
そう言った篠崎は、不意に身体を斜めにずらして身じろいだ。
それはまったく自然な動作で、誰の目にも止まらないだろう違和感の無い動き。後ろで控えていた村上でさえ、何の疑問も持ちはしなかった。
しかし次の瞬間、周囲の空気は一変する。
「いてててっ!」
突如としてあがる男の悲鳴。
その場にいた客や店の人間の視線が、一斉にそちらへと集まった。
人々の注目が集まる先にいるのは、苦痛に呻く男と、その腕を捻りあげている篠崎。
捕らわれた男の手から、紫色の巾着が零れ落ちた。
「スリの現行犯。村上君、捕縛」
「………は、はいっ!」
あまりに唐突なことに、周囲の民間人と一緒になって呆気に取られていた新人巡査は、そう促されて慌ててスリの男を引き受ける。
男に縄を打ちながら、気を利かせた誰かが呼んで来てくれた同僚に事情を説明した。
そのまま男を引き渡し、後のことを任せてから上司に促されて慌ててその後を追う。
篠崎の足取りは、スリを確保する数瞬前と何ら変わったところはなかった。
またもや遊山か冷やかしかと思われるような何気ない様子で、人ごみの中を分けて行く。
「不意打ちは卑怯だとか言うのもいるが、名より実を取るならこっちの方がずっと手っ取り早いだろ」
「は………」
何でもないことのように上司は言うが、しかし新人の村上には彼が一体いつからあのスリに目をつけていたのかまったくわからなかった。
何も考えていないようなふりをして、きっとあの店で足を止めた時点から狙いを定めていたに違いない。
真面目とは言い難い職務態度のこの上司を、彼よりも上の地位にあるお偉い方が指して曲者だと言ったその言葉を、新人巡査はここに来て初めて理解できる思いだ。
しかし、逆に真面目一辺倒なきらいのある彼は、その性質ゆえに上司の言に頷くことができない。
「ですがやはり、正々堂々、正義と警察の威信を示すことが、後に繋がる犯罪を抑制するためにも肝要であると―――」
「ああ、うん。そう言うと思ったよ」
放っておけば長々と語りだしそうな雰囲気を察して、篠崎は職務に忠実で真っ直ぐな気性を持っているらしい部下を早々に遮った。
その顔には僅かな諦めの色が浮かんでいる。
もとより、彼の職務に対する忠義を曲げることができないことなどわかっていたのだけれど。
ついつい言わずにはおれなかった一言を口にしたのは、自分が彼よりも上の立場にあるからだ。上司の自分に遮られれば、部下である彼はそれ以上話を続けることはない。
己の役職など、いつもは取るに足りないものだと認識していた篠崎だったが、この時ばかりはその価値を若干実感した。
どうせ自分がここでなにを言ったところで、警察組織の体制を変えられるものでもないのだ。
無意味な討論は、妥協という甘美な二文字の前に、なんの抵抗も見せることは無い。
「まぁとにかく、それを鳴らすときはせめて相手に近づいてから………」
「―――っ篠崎警部補、あれを!」
しかし篠崎のその言葉は、人ごみの向こうを指差す部下によって遮られてしまった。
どこか興奮しているような声音で示される方向を見やってみれば、そこには小柄な黒い影が人ごみの合間に見え隠れしていて。
篠崎は一瞬前の苦言も忘れ、ほうと呟きをもらす。
「これはまた、随分と大胆な………。ここまで堂々としたのは久しぶりだな」
遠くに見える黒い影は、その腰に二本の刀を差していた。
廃刀令の敷かれたこのご時世、まったくいなくなったというわけではないが、それでも帯刀する人間はめずらしい。
ましてやこんな往来で、隠しもせずに堂々と腰に差して闊歩するなど、よほど根性が座っているか、ふてぶてしいかのどちらかだ。
「逮捕します!」
張り切り勇んで許可を求める部下。
個人的に、あの違反者に対して一種好感にも似たものを感じないでもない篠崎だったが、しかし彼のまとう制服がそれを許さなかった。
気のはやる部下に頷いて許可を出すが、釘を刺すことだけは忘れない。
「ああ。ただし、警笛はもっと近づいてから―――」
ピピピピィ―――ッ!
「そこの黒いお前! 廃刀令違反で逮捕する!」
その一瞬で、周囲の空気ががらりと変わる。
叫ぶ警官、響く警笛。
「……………」
職務遂行への情熱に身を焦がす新人巡査の口から発せられる警告を、篠崎はなんとも言えない落胆と共に聞いていた。
駆け出す部下の後を追うように、その後ろに付いて走りながら。
「………まぁ、今回の場合は近づいていたとしても無駄、か」
一瞬だけこちらを振り返り、すぐさま身を翻した黒い影の動きを見て、篠崎はそう独り言ちた。
人ごみにまぎれるその素早さには驚嘆を禁じ得ない。
ただ単に、逃げることに慣れているだけではないのだと、その身のこなしから察する。
これは追いかけることすら無意味だと直感的に感じたがしかし、小柄な黒い影は篠崎の読みに反して、完全に姿をくらませることはしなかった。
ちらりちらりと絶妙のタイミングで人ごみの合間から姿を覗かせる。
それはまるで、自分たちを誘っているようで。
「…………」
篠崎は一瞬、人ごみの中に珍妙な服装をした少女の姿を見止めたが、そのまま止まることなく駆け抜けた。
あれは確か、忍び服ではなかっただろうか。
ちらりとそんなことを思ったが、それよりも先に、誘われていることにも気づかず、ただひたすらに影の後を追うこの部下の方をどうするべきかと。
いまだ笛を吹き鳴らすその後ろ姿を見ながら、篠崎は嘆息するより他なかった。
久々の更新。
古巣へ戻ってまいりました。
New!るろうに剣心 ― ベスト・テーマ・コレクション ―
★★★★★
るろうに剣心アニメ版の初代オープニング「そばかす」から、京都編のエンディング「1/3の純情な感情」までを
すべて収録。
しかも、劇場版のエンディング「永遠の未来」と、劇場版公開記念につくられた「宿敵見参!」と「The十本刀」(笑)
が収められているこのCD!
かなりいいんですよ〜。
るろ剣のCDは何枚か持ってますけど、一番良いのはこれですかねぇ。
なんというか、余分なものは一切はぶいてって感じです。
歴代オープニング、エンディングのなかで一番気に入っているのは、剣心の声を演じられた涼風真世さんが歌う
「涙は知っている」。
さすが元宝塚歌劇団トップの涼風さんです。上手いんですよね、歌が。
もちろん他の曲も良いですよ。ああ、この曲覚えてる〜、と、当時流れていた映像なんかも思い出したりして。
で・す・が!
私が何よりオススメしたいのは、劇場公開記念の「宿敵見参!」と「The十本刀」なんです!
アニメタルが歌うこの二曲。そのタイトルどおり、京都編以前の剣心の敵キャラ(鵜堂靭衛とか)と十本刀のテーマ
ソングです。
一人ひとりの心の内を歌詞にしてるんですが、とにかくこれが胸にくる!
そのキャラが背負うモノを、とても短い歌詞の中にぎゅっと凝縮しているんですよね。
歌っているのは声優さんじゃないんですけど、とにかくその一つ一つにキャラの全てが詰まってるといっても過言
じゃありません。
もちろん、四乃森蒼紫や斎藤一のテーマソングもありますよ。
曲調がヘビーメタル調なので最初の頃は抵抗があったんですけど、何回か聞いているうちにこれが一番のお気に
入りになりました。
皆さんもぜひ、聞いてみてください。
剣心華伝 ― 全史るろうに剣心 明治剣客浪漫譚 ―
★★★★★
五年にわたる連載の、ぶっちゃけ話や裏話が満載のこの一冊。
原作者である和月伸宏氏の事細かなインタビューを中心に、描かれなかったエピソードの話や、全二十八巻の詳
しいストーリー、表紙イラスト。とにかく様々な裏情報が収録されています。
和月氏のインタビューの中には、この頃にはまだ決まっていなかった次回作に関するコメントも含まれているとか。
好きな人は注目ですね。
今更という感じもしますが、連載が終わって随分経った今だからこそ、逆に新鮮に感じるのではないでしょうか。
「ああ、そういえばこんなこともあったなぁ」 なんて感傷に浸ってみたりするのもオツかも。(笑)
そして何より私の心を掴んで離さないのは、るろ剣本編では語られなかった、キャラクターたちの その後 が収録
されてるということ。
剣心と薫の子供については、最終巻で和月氏が語っていらっしゃいましたよね。
ところがこれには、他のキャラたちの後日談が、オールカラーで収録されています。
五年後のエピソードで、左之助や恵はもちろん、斎藤や操に至るまで描かれていて、これはもう必見!
コミックス二十八冊に加えて、これを持っていればもう完璧?
夢を書くときに役立ちそうですよね………。
剣心秘伝 ― 原典・るろうに剣心 明治剣客浪漫譚 ―
★★★★☆
こちらは京都編までの事細かなストーリーや情報が収録されている一冊。
範囲が限定されている分、こちらの方がデータがより詳しいものになっていますね。
たとえば、京都編に出てくるキャラたちのプロフィールとか、それまでの戦歴とか。
ていうか、これこそ私が今求めているものでは………?
とにかく情報が詳しいのが売り。
上の『剣心華伝』が、るろ剣という作品の流れに着目する歴史書ならば、こちらの『剣心秘伝』は特定の時代に的を
絞った専門書?
この二冊をそろえた暁には、マスターと名乗っていいですか?(笑)
カラーページも豊富で、京都編がお気に入りの人はぜひとも手に入れておきたい一品。
でもやっぱり時代が区切られていると言うことで、謙虚に星は四つ。
内容は五つ星なんですけどねぇ。
幕末恋華・新撰組 PS2
★★★★☆
トップページでも紹介している、『うるるんクエスト 恋遊記』と同じ3Dの作品。
本格派歴史系恋愛アドベンチャーですね。
史実に沿った事件が起こる中で、女性隊士として新撰組に所属することになった主人公。
時代の荒波に翻弄されながらも、刀を取り、懸命に戦い生き抜いていくのです。
まさしくゲーム版ドリームですな。
なにぶん新撰組ですから、どうやったって悲恋になるだろうってキャラはいますが、訪れたEDに感動することは請
け合いです。
絵柄も綺麗ですし、声優陣も豪華なメンバーが揃っているので満足できると思いますよ?(しかもフルボイス)
ただ、D3という会社の方針として、『安価で攻略も簡単なものを』という目標? 理念? の元に製作された物です
から、攻略は簡単です。
人によっては物足りなさを感じてしまうかも?
そういった点では初心者向きですかねぇ。
ですが、近藤勇や沖田宗司、土方歳三などと、時代に全てを捧げて一心に生き、けれどもその一方で、どうするこ
ともできずに湧き上がる暖かな思い。
これはかなり胸にきます。
現代に生きる私たちには予想できない、様々な人間模様が用意されているかも。
個人的にはおすすめですが、やはり攻略の難易度が低いことを踏まえて、星は四つ。