★ 『るろうに剣心 ― ベスト・テーマ・コレクション ―』 アニメ連載第一回から京都編までのオープニング・エンディング曲を全て収録。
アニメタルが歌う、劇場版公開記念のスペシャルソングは聞かなきゃ損! とにかくカッコいいんです!
 ★







 21 もう一人の男





 その男の双眸は、燃え盛る業火を孕む化石にも似て。

 けれどそこに宿る鋭利な眼光が、冷め切った鋼の剣呑な閃きを思わせた。
 厳重な包帯の向こうにある笑みが、似ても似つかないはずの過去の残像を呼び起こす。


 常から孕む狂気、野心。


 そのどれもが、十年の時を経た今でも寸分違わずそこにあるというのに。
 全身に負った裏切りの傷跡がそうさせるのか。
 それらは以前にも増して、確固たる存在を示しているように見えた。


「―――そんな時代に生まれ合わせたのなら、天下の覇権を狙ってみるのが男ってもんだろ」


 不敵に笑う志々雄の言葉に、隣にはべる由美は頷き、宗次朗はぱちぱちと手を打ち鳴らす。
 あまりにも昔と変わらないその物言い。
 けれどそれに苦笑を浮かべるような、そんな気分ではなかった。

 殺したはずの男。

 ただ一人、殺し損ねた男。

 望んで選んだ漆黒の道の、始まりの標であり唯一の汚点。

 けれど今ではそのことに、感謝すら覚えてしまう。

 生きていたことが嬉しいのかと問われればそれは是。
 おかげで思いもしない岐路が出来たのだと。
 この、引き返すことの出来ない一本道に。
 もう一つの選択肢を与えてくれた。

 己の望みを叶えることの出来る、もう一人の人間。


「―――だが、その正義の為に血を流すのはお前じゃない。その血を流したのは、今を平和に生きていた人たちだ」

「この世は所詮、弱肉強食………と言っても、先輩は納得しそうにないな」


 不敵に笑む志々雄に対し、剣心はその逆刃を抜く。
 お前一人の『正義』の為に、これ以上人々の血を流させるわけにはいかないと。

 今この場で決着をつけるつもりなのか、静かな殺気がより純度を増した。


「他のお二人はどうです?」


 張り詰めるその場の空気にまったくそぐわぬ爽やかな声音がそう尋ねる。
 先ほどから微塵の緊張も殺気も感じられない宗次朗の笑みが、斎藤との方へと向けられて。


「俺はあいつのように奇麗事を言う趣味はないがな。どうやら志々雄を仕留める側の方が性分に合っていそうだ」


 相手方に負けず劣らぬ不敵さ加減で斎藤が言う。


「私は―――」

「そいつには聞くだけ無駄ってもんだぜ、宗次朗」


 が口を開きかける前に、嘲るような声が前方から割り込んできた。
 がそちらへ視線を向けてみれば、ニヤリと口角を上げた口元とぎらぎら光る双眸。
 まるで極上の肴を前にしたかのような、そんな笑み。


「初めからそいつの相手は俺なのさ。十年前、この身が炎に焼かれたあの時からな」


 そうだろう? と。

 問うてくる志々雄の目に、過去の一瞬が重なる。
 かつて一度だけ、刀を付き合わせたあの時の。

 回避不可能な窮地におとしいれられながら、命のせりあいを純粋に楽しむ瞳。

 冷静な狂気の炎。


「ああ、そうだ」


 訝しげな顔をしている剣心を視界の端に収めながら、は冷然と頷いた。
 左手を腰の刀にかける。


「せっかくの対面だ。お望みなら "先輩への礼節" を尽くすのもやぶさかじゃないがな。志々雄さん?」


 にこりともせずにそう言ってやれば、志々雄は杯を手にしたままくつくつと笑いを漏らし顔を俯ける。
 隣にいた由美は、その姿にいささか目を丸くして。


「所詮この世は弱肉強食―――その絶対の理をこの身に教えてくれたあんたに、今さら先輩後輩なんて無粋なことを言うつもりはねぇさ」


 漏れる笑いに肩を揺らしながら志々雄がこちらを見上げる。
 その視線を目にした瞬間、はこの男の真意を直感的に悟った。

 何かを含んでいる双眸。
 今まさに刀の鯉口を切ろうとしていたの手は、ふとその力を緩める。

 剣心は抜き身を手に志々雄へ身体を向けていたが、明らかに二人のやり取りに疑問を抱いていることは気配で嫌と言うほどに分かる。
 しかしそれも、志々雄が身じろぎしたことで霧散した。

 一瞬で、はじめの溢れんばかりの殺気で満たされるその場。


「まあ、俺のほうもやるならやるでかまわないけどな。だがどうせなら、花の京都と洒落込みたいもんだ。それにあっちには、わざわざ用意した "京の雪" があることだしな」

「雪?」


 怪訝な表情をその瞳によぎらせたのは、最前線に立つ剣心だけではない。
 斎藤も僅かに眉を寄せて。


「外側だけでなく、脳みそまで焼け爛れたか」


 などと多分に嘲りを含んで吐き捨てたのだけれど、志々雄はことさら楽しそうな顔をしてを見やる。


「宗次朗からの伝言は聞いただろう。この俺が直々に用意した持て成しだ。気に入るぜ」

「………………」


 その真意を測りきれないは眉間に僅かな皺を刻む。
 けれど志々雄はこれ以上しゃべる気はないらしかった。
 包帯に包まれた右手を、軽く畳の上にかざして。


「まあ、どうしてもやると言うなら………」


 とん、と軽く、無造作に置いた瞬間。



 ドゴォ――!



 耳障りな破壊音が轟き、目の前の畳が破片となって盛大に飛び散った。
 そして現れた、筋骨たくましい巨漢の男。


「この新月村を統治する尖角が相手だ!」

「………そうか、お前が尖角……。栄二の両親と兄を殺した男でござるな」


 血気にはやる男とは対照的に静かな声音で呟いた剣心の言葉を遮って、男は獣のごとき咆哮を高らかにあげた。
 そしてそのまま突っ込んでくる巨体。
 その無駄にでかい体格にしては、目を見張ってもいいぐらいの速さだった。

 しかしその進行方向にいた三人は慌てるでもなく、それぞれ最小限の動きで身体を避ける。
 尖角の懐剣は空を切り、真正面の襖を粉砕する―――。

 そう思った瞬間。


「遅い!」


 意外な素早さで身体を旋回させた尖角は、左側に避けた剣心めがけて勢い良く攻撃を繰り出した。
 それをまともに受けた小柄な剣心の身体が、後方の襖へ激突する。


「緋村抜刀斎、恐るるに足らず!」


 歓喜の雄たけびを吼える尖角。
 すぐそばで身じろぎもせずに観戦していた宗次朗も、意外にあっけなかったと感想をもらしたけれど。


「栄二との約束でござる―――」


 尖角の握り懐剣と、破壊された襖の間。


「志々雄の前に、まずお前から倒す!」


 剣心の逆刃によって防がれた懐剣は、無残にもその刃を深く砕かれていた。





2005/11/19 up

久しぶりの更新。
志々雄とヒロインの関係がちらほらと出てまいりました。


――― 勝手にうんちく じゅういちがつじゅうくにち ―――

  ★ 評価は五段階 ★

New!るろうに剣心 ― ベスト・テーマ・コレクション ―  ★★★★★
   るろうに剣心アニメ版の初代オープニング「そばかす」から、京都編のエンディング「1/3の純情な感情」までを
   すべて収録。
   しかも、劇場版のエンディング「永遠の未来」と、劇場版公開記念につくられた「宿敵見参!」と「The十本刀」(笑)
   が収められているこのCD!
   かなりいいんですよ〜。
   るろ剣のCDは何枚か持ってますけど、一番良いのはこれですかねぇ。
   なんというか、余分なものは一切はぶいてって感じです。
   歴代オープニング、エンディングのなかで一番気に入っているのは、剣心の声を演じられた涼風真世さんが歌う
   「涙は知っている」。
   さすが元宝塚歌劇団トップの涼風さんです。上手いんですよね、歌が。
   もちろん他の曲も良いですよ。ああ、この曲覚えてる〜、と、当時流れていた映像なんかも思い出したりして。
   で・す・が!
   私が何よりオススメしたいのは、劇場公開記念の「宿敵見参!」「The十本刀」なんです!
   アニメタルが歌うこの二曲。そのタイトルどおり、京都編以前の剣心の敵キャラ(鵜堂靭衛とか)と十本刀のテーマ
   ソングです。
   一人ひとりの心の内を歌詞にしてるんですが、とにかくこれが胸にくる!
   そのキャラが背負うモノを、とても短い歌詞の中にぎゅっと凝縮しているんですよね。
   歌っているのは声優さんじゃないんですけど、とにかくその一つ一つにキャラの全てが詰まってるといっても過言
   じゃありません。
   もちろん、四乃森蒼紫や斎藤一のテーマソングもありますよ。
   曲調がヘビーメタル調なので最初の頃は抵抗があったんですけど、何回か聞いているうちにこれが一番のお気に
   入りになりました。
   皆さんもぜひ、聞いてみてください。


剣心華伝 ― 全史るろうに剣心 明治剣客浪漫譚 ―  ★★★★★
   五年にわたる連載の、ぶっちゃけ話や裏話が満載のこの一冊。
   原作者である和月伸宏氏の事細かなインタビューを中心に、描かれなかったエピソードの話や、全二十八巻の詳
   しいストーリー、表紙イラスト。とにかく様々な裏情報が収録されています。
   和月氏のインタビューの中には、この頃にはまだ決まっていなかった次回作に関するコメントも含まれているとか。
   好きな人は注目ですね。
   今更という感じもしますが、連載が終わって随分経った今だからこそ、逆に新鮮に感じるのではないでしょうか。
   「ああ、そういえばこんなこともあったなぁ」 なんて感傷に浸ってみたりするのもオツかも。(笑)
   そして何より私の心を掴んで離さないのは、るろ剣本編では語られなかった、キャラクターたちの その後 が収録
   されてるということ。
   剣心と薫の子供については、最終巻で和月氏が語っていらっしゃいましたよね。
   ところがこれには、他のキャラたちの後日談が、オールカラーで収録されています。
   五年後のエピソードで、左之助や恵はもちろん、斎藤や操に至るまで描かれていて、これはもう必見!
   コミックス二十八冊に加えて、これを持っていればもう完璧?
   夢を書くときに役立ちそうですよね………。


剣心秘伝 ― 原典・るろうに剣心 明治剣客浪漫譚 ―  ★★★★☆
   こちらは京都編までの事細かなストーリーや情報が収録されている一冊。
   範囲が限定されている分、こちらの方がデータがより詳しいものになっていますね。
   たとえば、京都編に出てくるキャラたちのプロフィールとか、それまでの戦歴とか。
   ていうか、これこそ私が今求めているものでは………?
   とにかく情報が詳しいのが売り。
   上の『剣心華伝』が、るろ剣という作品の流れに着目する歴史書ならば、こちらの『剣心秘伝』は特定の時代に的を
   絞った専門書?
   この二冊をそろえた暁には、マスターと名乗っていいですか?(笑)
   カラーページも豊富で、京都編がお気に入りの人はぜひとも手に入れておきたい一品。
   でもやっぱり時代が区切られていると言うことで、謙虚に星は四つ。
   内容は五つ星なんですけどねぇ。


幕末恋華・新撰組 PS2  ★★★★☆
   トップページでも紹介している、『うるるんクエスト 恋遊記』と同じ3Dの作品。
   本格派歴史系恋愛アドベンチャーですね。
   史実に沿った事件が起こる中で、女性隊士として新撰組に所属することになった主人公。
   時代の荒波に翻弄されながらも、刀を取り、懸命に戦い生き抜いていくのです。
   まさしくゲーム版ドリームですな。
   なにぶん新撰組ですから、どうやったって悲恋になるだろうってキャラはいますが、訪れたEDに感動することは請
   け合いです。
   絵柄も綺麗ですし、声優陣も豪華なメンバーが揃っているので満足できると思いますよ?(しかもフルボイス)
   ただ、D3という会社の方針として、『安価で攻略も簡単なものを』という目標? 理念? の元に製作された物です
   から、攻略は簡単です。
   人によっては物足りなさを感じてしまうかも?
   そういった点では初心者向きですかねぇ。
   ですが、近藤勇や沖田宗司、土方歳三などと、時代に全てを捧げて一心に生き、けれどもその一方で、どうするこ
   ともできずに湧き上がる暖かな思い。
   これはかなり胸にきます。
   現代に生きる私たちには予想できない、様々な人間模様が用意されているかも。
   個人的にはおすすめですが、やはり攻略の難易度が低いことを踏まえて、星は四つ。