★ 『るろうに剣心 ― ベスト・テーマ・コレクション ―』 アニメ連載第一回から京都編までのオープニング・エンディング曲を全て収録。
アニメタルが歌う、劇場版公開記念のスペシャルソングは聞かなきゃ損! とにかくカッコいいんです!
 ★







 16 先行き






「それじゃ、ごゆっくりー」


 愛想のいい宿の女将さんは、高めた声でそう言うと襖を閉ざして出て行った。
 はその気配が階下へ降りていくのを確かめてから、腰の刀を抜いて壁を背に座り込む。
 窓の下からは、通りを通る人々のざわめきが響いていて。
 部屋の位置が変わったこと以外、三畳ほどの客室は、以前使っていたそれとほとんど変わりばえしなかった。

 東京に着いたばかりの頃。
 神谷道場で世話になる以前に泊まっていた旅籠へと、はこうして戻ってきたのだ。


「……………」


 部屋の隅に置いた自分の荷物をちらりと見やる。
 荷物といっても小さな風呂敷包み一つしかないので、出てくるのに小半時とかからなかった。


『―――っどうして!?』


 ほんの一時ほど前に聞いた声をふと思い出す。
 目に溢れんばかりの涙を溜めて。
 必死で自分を睨んでいる瞳。


『どうしてそんなこと言うの!?』


 驚きと、焦りと、怒りと。
 たくさんの感情が入り混じった目で責めていた。
 初めてみるそれは、痛々しいほどで。

 けれど、やめたりはしない。

 薫さんの悲痛な叫びと、弥彦の責める瞳と、左之助の怒る気配と。

 それらを全て真正面から見据えて、言ったのだ。







 ―――剣心は、人斬りだ………と。







 変えられるはずのない事実を。
 剣心はもう人斬りじゃない、抜刀斎なんかじゃないと、何度となく繰り返す彼女たちを見て。
 言ったのだ。





 ―――過去を受け入れることと、目を逸らすことは違う。

 ―――私には皆が必死で………それこそ剣心本人にすら、そう言い聞かせたがっているようにしか聞こえない。




『―――っ剣心は人斬りじゃないわ!』


 その言葉に真っ先に反応したのは、他の誰でもない、薫だった。
 その場には弥彦も左之助も、剣心も座っていたけれど。
 真っ先に口を開いたのは彼女で。

 ちゃぶ台に片手をついて、思わず腰を浮かせていた。
 ぎゅっと拳を握り締めて。


さんだって知ってるじゃない! 剣心はもう、昔のような人斬り抜刀斎じゃなく、ただの流浪人なんだって。不殺を誓ってるって。知ってるじゃない!』


 それなのにどうしてそんなことを言うのか。
 もしかしたら剣心は、私たちの前から去っていってしまうかもしれないのに。
 その不安を煽り立てるようなの言葉に、焦る薫の瞳は訴えていた。

 どうして、どうして、と。

 じっと視線を逸らさないに問い掛けている。


『昔の剣心がどんなだったかなんて知らないわ。確かに人斬りだったのかもしれない。たくさん人を……殺したのかもしれない。でも、私たちが知ってるのは今の剣心よ。抜刀斎なんかじゃない、流浪人の緋村剣心。私たちは、剣心の過去なんかにこだわらないわ』


 そう、きっぱりと言って。
 けれどその気丈さが、必死に取り繕っているものだと気づくのは易い。

 は更に、身体の奥の温度を下げて。


『過去にこだわらないというのは、目を背けることとは違うんだよ』


 つつけば簡単に壊れてしまいそうなそれを、容赦なく切り崩した。
 弥彦も、左之助も、剣心でさえも、驚いたようにの顔を見やっている。

 さらりと告げられた言葉は鋭利で重く、酷薄だ。
 は言葉を失っている薫から視線をはずし、他の三人にゆっくりと視線を当てた。


『みんな、忘れてないか? 逆刃刀だって、突けば刺さるし返せば斬れる。やろうと思えば、剣心はいつだって簡単に人を殺せるんだよ』


 ましてや剣心ほどの腕があれば、斬らずとも打ち据えるだけで命を奪えるだろう。
 はそう言う。

 いつでも殺せたのだと。
 ほんの少し力加減を変えるだけで、自由に命を奪えたのだと。


『それと同じように人斬り抜刀斎だって、その心一つで殺さずに済ますこともできた』

『けど抜刀斎は暗殺者だったんだろ? 殺さないわけにはいかねぇじゃねぇか!』


 咄嗟に弥彦が反論する。
 彼にとって剣心は憧れだ。目標とする人物だ。
 剣心のように生きたいと。剣心のように強い男になりたいと。
 その思いは、決して色あせることはない。

 けれどは、そのひたむきな強さを前に軽く笑って。


『ああ、確かにね。その通りだ。維新の障害となる連中を殺すのが暗殺者、人斬りの役目。だから、殺さずに済むなんてことはありえなかった………でも』


 ひたりと睨みすえる。
 射すくめるように研ぎ澄ました眼光で。


『その道を選んだのは誰だ? 暗殺者として生きることを、抜刀斎としての生き方を、初めに選んだのは誰だ?』


 維新に組することを望んだときに。
 頼まれたにしろなんにしろ、その役目を担うことの意味を知っていて。
 それでも受け入れたのは、他でもない、剣心だ。

 先ほどから一度も口を開かない剣心は、まっすぐにこちらを見つめていた。
 だからも、それを受け止める。


『抜刀斎という人物に剣心が成り代わったわけじゃない。人斬りの道を選んだ剣心が、抜刀斎と呼ばれるようになっただけだ』


 呼び方を変えたからといってその物の本質が変わることのないように、人間もまたそう易々と、別の誰かに成り代われるわけがないのだ。
 過去も、未来も、現在も、この世に生まれてきた限り、人は己として生きていかざるを得ない。


『過去を受け入れるということは、目を逸らすこととは違う』


 剣心をひたと見据えて。
 の静かな声が、重苦しいその場に紡がれた。

 誰も口を開けなくて。
 皆固く口を引き結び、悔しそうな、辛そうな顔で俯いて。
 ただ剣心だけが、の言葉に目を見開いていた。

 はそれに気づきながらただ無言のままに立ち上がり、その足で神谷道場を後にしたのだ。








「……………さて、どうしたものかな」


 ぼんやりと虚空に視線を漂わせたまま、はポツリと呟く。
 外から聞こえる真昼の喧騒はどことなく心地良い。

 自分は京都へ行く。

 そう決めたけれどしかし、とりあえず大久保さんへの返事は指定された日にちまで待とうと思った。
 求められているのは自分と緋村抜刀斎。
 先に決断を伝えたところで、おそらく剣心を待つことになるのだろう。
 それならば、わざわざ政府の監視下に自ら飛び込んでいくこともない。
 期日まで、このすっかり馴染んでしまった東京との別れを満喫するのも良いだろうと思う。





 きっともう二度と、ここへは戻ってこないのだから………。





「…………」


 その時ふと。
 気配が階段を上ってくるのを感じて身体を起こした。
 もちろんここは旅籠だからいろんな人間の気配が常にあるのだけれど。
 階段を上ってくるその気配は明らかに、自分のいるこの部屋を目指している。

 がしばらく出入り口の襖を見つめていると、案の定気配はそのすぐ向こうで止まり、先ほど聞いた女将の高い声がくぐもって聞こえてきた。


「すいません、お客さん。お客さんに会いたいってお人が下にいらっしゃってるんですがねぇ」

「会いたい………?」


 女将の告げた内容に、は怪訝な声を漏らした。
 神谷道場をあんな形で後にして、その後まっすぐ誰にも言わずにこの旅籠へ来たというのに。
 一体誰が、自分がここにいることを知っているというのだろう。

 しかも会いたいだなんて言うような人間に、少なくとも今は心当たりがなかった。
 しかし、女将は少々当惑気味な声音で言う。


「左の頬に十字傷のある、背の低い赤い髪の男でしたよ。刀を一振り腰に提げた」

「……………」


 最初の、左の頬に……の部分であっさりとその人物の正体を知る。
 しかも背の低い赤毛で刀を提げたとくれば、もう疑いようもなかった。
 もしこれにすべて当てはまる別の人間がいるというなら、ぜひとも連れてきてもらいたい。

 は軽く溜め息をつくと、腰をあげて刀を手に取った。
 そのまま襖を開けて、膝をついてこちらを見上げている女将に言う。


「知り合いだ。ちょっとでてくるよ」

「お気をつけて」


 三つ指をつく女将の声を聞きながら、は腰に刀を差しつつ階段を下りた。
 そうしてすぐさま訪問者を見つけて、呆れかえって物も言えないとばかりに盛大に溜め息をついてみせる。


「よくもまぁ、さっきの今で会いに来る気になったもんだ。頭の中身を見てみたいね」


 そう冷えた視線を投げつければ。


「そう言われても、簡単に開けられぬでござるからなぁ」


 などという、軽い答えが返ってきて。
 声を落としたが、試してみようか………と刀の鯉口を切って見せるものだから剣心は慌てて、冗談でござるよ! と後ずさった。





2005/07/16 up

神谷道場を家出。
あとは剣心を待つのみです。
もし剣心がこなくても、彼女はきっと一人でも行くことでしょう。


――― 勝手にうんちく なながつじゅうろくにち ―――

  ★ 評価は五段階 ★

New!るろうに剣心 ― ベスト・テーマ・コレクション ―  ★★★★★
   るろうに剣心アニメ版の初代オープニング「そばかす」から、京都編のエンディング「1/3の純情な感情」までをすべて収録。
   しかも、劇場版のエンディング「永遠の未来」と、劇場版公開記念につくられた「宿敵見参!」と「The十本刀」(笑)が収められているこのCD!
   かなりいいんですよ〜。
   るろ剣のCDは何枚か持ってますけど、一番良いのはこれですかねぇ。
   なんというか、余分なものは一切はぶいてって感じです。
   歴代オープニング、エンディングのなかで一番気に入っているのは、剣心の声を演じられた涼風真世さんが歌う「涙は知っている」。
   さすが元宝塚歌劇団トップの涼風さんです。上手いんですよね、歌が。
   もちろん他の曲も良いですよ。ああ、この曲覚えてる〜、と、当時流れていた映像なんかも思い出したりして。
   で・す・が!
   私が何よりオススメしたいのは、劇場公開記念の「宿敵見参!」「The十本刀」なんです!
   アニメタルが歌うこの二曲。そのタイトルどおり、京都編以前の剣心の敵キャラ(鵜堂靭衛とか)と十本刀のテーマソングです。
   一人ひとりの心の内を歌詞にしてるんですが、とにかくこれが胸にくる!
   そのキャラが背負うモノを、とても短い歌詞の中にぎゅっと凝縮しているんですよね。
   歌っているのは声優さんじゃないんですけど、とにかくその一つ一つにキャラの全てが詰まってるといっても過言じゃありません。
   もちろん、四乃森蒼紫や斎藤一のテーマソングもありますよ。
   曲調がヘビーメタル調なので最初の頃は抵抗があったんですけど、何回か聞いているうちにこれが一番のお気に入りになりました。
   皆さんもぜひ、聞いてみてください。


剣心華伝 ― 全史るろうに剣心 明治剣客浪漫譚 ―  ★★★★★
   五年にわたる連載の、ぶっちゃけ話や裏話が満載のこの一冊。
   原作者である和月伸宏氏の事細かなインタビューを中心に、描かれなかったエピソードの話や、全二十八巻の詳
   しいストーリー、表紙イラスト。とにかく様々な裏情報が収録されています。
   和月氏のインタビューの中には、この頃にはまだ決まっていなかった次回作に関するコメントも含まれているとか。
   好きな人は注目ですね。
   今更という感じもしますが、連載が終わって随分経った今だからこそ、逆に新鮮に感じるのではないでしょうか。
   「ああ、そういえばこんなこともあったなぁ」 なんて感傷に浸ってみたりするのもオツかも。(笑)
   そして何より私の心を掴んで離さないのは、るろ剣本編では語られなかった、キャラクターたちの その後 が収録
   されてるということ。
   剣心と薫の子供については、最終巻で和月氏が語っていらっしゃいましたよね。
   ところがこれには、他のキャラたちの後日談が、オールカラーで収録されています。
   五年後のエピソードで、左之助や恵はもちろん、斎藤や操に至るまで描かれていて、これはもう必見!
   コミックス二十八冊に加えて、これを持っていればもう完璧?
   夢を書くときに役立ちそうですよね………。


剣心秘伝 ― 原典・るろうに剣心 明治剣客浪漫譚 ―  ★★★★☆
   こちらは京都編までの事細かなストーリーや情報が収録されている一冊。
   範囲が限定されている分、こちらの方がデータがより詳しいものになっていますね。
   たとえば、京都編に出てくるキャラたちのプロフィールとか、それまでの戦歴とか。
   ていうか、これこそ私が今求めているものでは………?
   とにかく情報が詳しいのが売り。
   上の『剣心華伝』が、るろ剣という作品の流れに着目する歴史書ならば、こちらの『剣心秘伝』は特定の時代に的を
   絞った専門書?
   この二冊をそろえた暁には、マスターと名乗っていいですか?(笑)
   カラーページも豊富で、京都編がお気に入りの人はぜひとも手に入れておきたい一品。
   でもやっぱり時代が区切られていると言うことで、謙虚に星は四つ。
   内容は五つ星なんですけどねぇ。


幕末恋華・新撰組 PS2  ★★★★☆
   トップページでも紹介している、『うるるんクエスト 恋遊記』と同じ3Dの作品。
   本格派歴史系恋愛アドベンチャーですね。
   史実に沿った事件が起こる中で、女性隊士として新撰組に所属することになった主人公。
   時代の荒波に翻弄されながらも、刀を取り、懸命に戦い生き抜いていくのです。
   まさしくゲーム版ドリームですな。
   なにぶん新撰組ですから、どうやったって悲恋になるだろうってキャラはいますが、訪れたEDに感動することは請
   け合いです。
   絵柄も綺麗ですし、声優陣も豪華なメンバーが揃っているので満足できると思いますよ?(しかもフルボイス)
   ただ、D3という会社の方針として、『安価で攻略も簡単なものを』という目標? 理念? の元に製作された物です
   から、攻略は簡単です。
   人によっては物足りなさを感じてしまうかも?
   そういった点では初心者向きですかねぇ。
   ですが、近藤勇や沖田宗司、土方歳三などと、時代に全てを捧げて一心に生き、けれどもその一方で、どうするこ
   ともできずに湧き上がる暖かな思い。
   これはかなり胸にきます。
   現代に生きる私たちには予想できない、様々な人間模様が用意されているかも。
   個人的にはおすすめですが、やはり攻略の難易度が低いことを踏まえて、星は四つ。