0 闇深き
―――暗い闇。
ここは、急激に変わり行くこの国の中心部であるはずなのに。
なぜこれほどまでに、暗いのだろう。
見える光は月明かりと、時折ひらめく刃の煌めき。
けれどそれも、雲が月を遮り、血が刃を曇らせて。
全てのものを飲み込んでしまいそうなほどの暗闇の中に。
それでもはっきりとわかるほどの、紅、赤、赫―――。
互いに同じ思想を掲げ。
憂えているのは、同じもののはずなのに。
歩む道を、違えたがゆえに。
『―――大丈夫か』
『…………剣心』
眠りとも言えないほどの浅いまどろみに俯けていた顔をあげれば、飛び込んできた顔のほうが、ひどい表情をしていて。
ふと、微笑んでみせる。
手を伸ばして、その左頬の十字傷にやさしく触れた。
握り返してくる手が、ひどく冷たい。
それがまるで、縋られているようで。
微笑んだまま、答える。
『―――大丈夫』
繰り返し。
『大丈夫』
ふと、屋内に誰かが入ってきた気配がして、お互いに刀を手にする。
階段を駆け上がってくるのは、覚えのある同志の足音。
『――っ緋村! ! 来てくれ、五条通の方だ!』
それは宣告。
刀が閃き、京の町が鮮血に染まる、先触れ―――。
とうの昔に血塗れとなった、その身を起こして。
腰に差した刀の、冴えた鍔鳴り。
暗く、冷たい京の街に、今宵もあたたかな、血の雨が降る。
『行こう』
どちらからともなくそう言って。
互いの刃を突き合わせたその先に、求めるものは同じはずなのに。
動き始めた歯車を、止めることは誰にも出来ない。
時代が血を、求めていた―――――。