★ ハリー・ポッターの世界がここに! 本(和・洋)、DVDはもちろん、海外で販売される商品など、
                   ありとあらゆるグッズが勢ぞろい! あなたが探していたグッズ、知らなかったモノが見つかるかもです! ★







 3 買い物へいこう!






 初めて会ったその男の子は、どことなくヨレっとした印象だった。


「よろしく」

「………よろしく」


 朝も早くから、あの夜の言葉どおりこのおんぼろアパートに戻ってきたハグリッドに、こいつがハリーだと紹介されて。
 は一瞬戸惑いながらも差し出された手を握った。

 その手は少し骨ばっていてこの年代の子供にしては痩せているようだったけれど、それは自分も人のことは言えないだろう。
 ヨレっとして見えるのは着ている服が大きすぎるのと、眼鏡がところどころ壊れているせいなのだとわかった。

 誰かと握手をするなんて何年ぶりかのことだったは、一瞬だけ躊躇してから差し出された手を握る。
 しかし幸いにも、ハリーの方は気づいた様子はなかった。


「さあ、今日は忙しいぞ! さっそく買い物だ!」


 なぜだか意気揚々としているハグリッドに促され、とハリーはそれに従う。
 道中、ハグリッドの常識はずれな行動にハリーは冷や汗をたらしたが、はどこ吹く風とばかりに平然としていて。
 ハリーはなんだか、自分だけがおかしいような、そんな錯覚にとらわれる。


「あの、君もマグルの中で育ったんだよね?」

「………マグル?」


 席が狭いの電車が遅いのとハグリッドが大声で文句を言う車内で何となく肩を小さくして座っていたハリーは、おずおずとに話し掛けた。
 は初めて耳にする単語に首をかしげる。


「その、魔法使い………じゃない人のことをそう言うんだって。ハグリッドが言ってた」


 まだその言葉を知って間もないハリーは、魔法使いという単語で僅かに逡巡する。
 ハグリッドを疑っているわけではないが、やはりつい昨日まであるはずがないと思っていたものを、突然今日から当然のようにあるものとして口にするのは抵抗があるのだろう。
 生まれてからこれまでの人生で、魔法なんて存在を一切信じたことも思い描いたこともなかったは、ハリーの心情がなんとなく理解できた。


「そうね。少なくとも私の周りには、魔法使いだなんて言う人は一人もいなかった。あなたも?」

「うん。僕も自分が魔法使いだなんて、つい昨日まで知らなかったんだ。でも、両親は魔法使いだったんだって」

「ご両親から聞かなかったの?」


 が何気なくそう尋ねると、少しだけハリーの表情が曇る。


「………死んだんだ。僕がまだ赤ん坊だった時に。僕はおじさんの家で育てられたんだ」

「そう」


 悪いことを訊いたかと首を傾げるに、ハリーは気にしなくていいと言って笑った。
 それを見たは、ふと地下を走る真っ黒な窓の外へ視線をやる。
 等間隔に流れていくライトの光を眺めながら。


「私を………産んだ人は、二人ともマグルだわ」


 ポツリと独り言のように呟く。
 直接聞いたことはないが、まず間違いなくそうだろう。
 でなければきっと今ごろ自分は、こうしてハリーやハグリッドと共にここにはいないはずなのだから。

 そんなの声がわずかばかり沈んでいるように聞こえて、ハリーはの顔を窺った。
 けれど、その表情はどこも変わったところはなくて。

 は会った時からあまり表情を変えない。
 とても落ち着いていて、同い年であるはずの自分よりもどこか大人びて見えるけれど、ハリーはなぜだかそれだけではないような気がしてならなかった。
 どこか自分とは、同じ年代の自分たちとは違うような気がして………。


「あ、ねぇ、君のことって呼んでもいいかな? 僕のことはハリーって呼んでくれて構わないから」


 ぼんやりと窓の外を見ていたは、ハリーから不意にそう言われて一瞬きょとりとした。
 目をぱちくりさせてハリーを見る。
 ぶつかった瞳は明るい緑色で、その額に稲妻型の傷が走っているのが見えた。

 こんな風に人と親しく話すことも、ファーストネームを呼び合うことも、一人での生活がもう随分と長いにとっては初めての経験で。
 慣れないことに一瞬どう反応すればいいのかわからず、は思わずフリーズしてしまったけれど。
 目の前のハリーの顔がとても期待に満ち満ちていたので。


「…………私、同年代の友達って初めてよ、ハリー」


 そう言って、微笑んで見せた。
 それは、ハリーがと出会って初めて目にした笑顔。
 ふわりと羽が舞うようなやわらかなそれに、不意をつかれたハリーは一瞬目を瞬いて。
 少し赤らんだ頬で笑みを浮かべながら、僕もだ、と呟くように言った。








           *








 は、これまで何度となくロンドンの銀行に足を運んだことがある。
 それは、まだ幼すぎて働き口が見つからなかった頃、定期的に振り込まれる生活費を下ろすために。
 いくらかでも自分で稼げるようになれば、その職種上、現金で支払われることが多かった給金を、光熱費として引き落とされるよう口座へ預けるために。

 ちょくちょくとはいかないまでも、にとって銀行は生活圏の一部であると言っても過言ではないだろう。
 その佇まいも雰囲気も、すっかり慣れたもので。

 しかし、今日が訪れたその場所は、それまでのの中にあった銀行のイメージとは似ても似つかない、たいそう豪華で仰々しく、非常にファンタスティックな場所だった。


「まずは、お前さんの分だ。金は持ってきてるな?」


 ハグリッドに呼ばれて、ハリーと共にそこここにいる銀行員のゴブリンたちを物珍しげに見ていたは、ポケットに押し込んであった財布を取り出した。
 いつもはペシャンコなそれは、今日はこんもりと盛り上がっている。

 突然ハグリッドが真夜中に訪ねてきたその翌日に、はさして広くもない部屋中をひっくり返し、それこそありったけの現金をかき集めたのだ。
 この小さな財布の中にあるのは、まさしくの全財産だ。

 ハグリッドはそれを見るとよしよしと頷いて、一つのカウンターへとを促した。


「あー、換金を頼みたいんだが。マグルの金なんだ」


 ハグリッドがカウンター越しにそう声をかけると、一人のゴブリンが向かっていた帳面から顔を上げてこちらを見た。
 まともに目が合ってしまったは、物怖じすることなく彼(?)を見上げる。
 そのゴブリンはまるで値踏みでもするかのようにとハグリッドのことを交互に見ると、慇懃とも取れる口調で手を差し出した。


「………拝見しましょう?」


 人間のそれよりも細く長い指の手に、は言われるままに財布を乗せる。
 ゴブリンは受け取ったそれの口を躊躇いなく開けると、そのまま無造作にひっくり返して見せた。

 顔が映るほどに磨き上げられたぴかぴかのカウンターに惜し気もなくまかれる無数の小銭。
 バラバラと音をたてて散らばるそれを見たゴブリンは、重みのなくなった古ぼけた財布の中を覗きこみ、引っかかって出てこなかった小さく折りたたまれた紙幣をつまみ出した。
 広げてみればそれは何枚か重ねてあって、ばら撒かれた小銭の上にそれをのせる。


「……………」

「どうだ、いくらになる?」


 黙々と小銭の選別をし、手元の器具でなにやら計算をはじめたゴブリンを見守っていたハグリッドは、同じくそれを見つめていたに代わって問い掛けた。
 鼻先に乗せた小さな眼鏡を押し上げて、ふむと頷くゴブリン。
 おもむろにその場から離れると何も言わずに奥へと姿を消し、戻ってきた時には片手に小さな袋を持っていた。


「どうぞ、お客様」


 カウンターの下からひょっこり顔を覗かせているに向かってそれを差し出す。
 布越しに感じるのは全て貨幣の感触。
 そういえば、ここに来る途中でハグリッドから聞いた説明の中には紙幣の存在がなかったことをは思い出した。

 受け取る際にゴブリンから金額を告げられたが、魔法使いの通貨単位がいまいち良くわからないは、差し出されたそれを素直に受け取る。
 が、隣にいたハグリッドはそうはいかなかった。


「なに、たったそれだけだって? おい、数え間違えちゃいないか」


 その額を聞いた途端、ハグリッドは身を乗り出して両替を行ったゴブリンに詰め寄った。
 しかしそうされたゴブリンはどうやら矜持を傷つけられたようで、非常に不快気な顔をしてハグリッドを睨み返し、ことさら冷たい声で言い返す。


「そんなことはございません。確かにこちらさまから預かったマグルの通貨はこれだけでございます」


 それ以上は説明する義理も謂れもないとばかりに、ゴブリンは最初向かっていた帳面へとまた戻ってしまった。
 そうされてはもうどうしようもない。
 ハグリッドは溜め息をつきながら、仕方がねぇといってその場を離れる。


「ハグリッド、今からでも遅くないからホグワーツに断りの手紙を………」

「いいや、ならねぇ。ダンブルドアはお前さんとハリーを必ずホグワーツへ向かわせるようにと俺にお言いつけなさったんだ。心配せんでもどうにかなる」


 一体どんな根拠でそんなことを言うのかはわからなかったが、はとりあえずハグリッドの言うとおりにすることにした。

 さて、今度はハリーとハグリッドの用事なのだが、地下金庫までのトロッコの旅はもう語るまでもないだろう。
 話に聞いたことのあるジェットコースターとはきっとこんな感じなんだろうと、はくらくらする頭で考えた。
 ハグリッドがダンブルドア先生のお使いだといって懐にしまった小さな包みのことは気になったが、それも帰りのトロッコのおかげですっかり頭の隅へと追いやられてしまう。

 そうしてようやく本格的に買い物をするためにダイアゴン横丁へとくりだした三人は、まず初めに制服を買うために『マダムマルキンの洋装店』へと足を向けた。
 漏れ鍋で元気薬をひっかけたいというハグリッドと店の前で別れ、ハリーとはどちらからともなく視線を合わせる。
 そうしておもむろに店の扉をくぐった。


「あらいらっしゃい。坊っちゃんもお嬢ちゃんもホグワーツね? こっちへどうぞ。さあさ、一人はここで待っていてくれるかしら」


 やハリーが口を開く間もなく、店主のマダムマルキンはまるで流れるように二人を店内へと導いた。
 店の奥にある採寸用の踏み台にはすでに先客がいて、空いている踏み台は一つしかない。


「ハリー、私は先に用があるから。お先にどうぞ」

「え、でも………」


 いいの? と首を傾げているハリーに頷いて、は反対側でなにやら作業をしている店員に近づいていって声をかけた。


「すみません。ここ、古着はおいてますか?」

「古着?」


 尋ねられた魔女は不思議そうな顔で振り返る。
 その年代の平均よりも幾分背の小さいを見下ろして。


「ええ、あるけど………。ホグワーツの制服でいいのかしら」


 何かを一瞬言いかけたようだったが、すぐに取り繕うとにっこりと笑みを浮かべてを別の部屋へと案内した。
 何十着も同じ型のローブが並ぶ部屋で、店員の魔女が出してくれたものを二、三枚試着してサイズを確かめると、は早々に制服を買い求めた。
 丁寧に包んでくれたそれを手に、初め案内されたところへ戻ると、丁度ハリーの隣で先に採寸をしていた少年が終わったところで。


「じゃ、ホグワーツでまた会おう。たぶんね」


 まだ踏み台の上で採寸を続けているハリーに向かってそう言った少年は、すれ違いざまにをちらりと見やると、これ見よがしに鼻で笑って店を出て行った。


「………なに、あの子?」


 は不快というでもなく、ただ不思議そうにその後ろ姿を見やる。
 踏み台の上のハリーは少し顔をしかめながら、さあ、とそっけなく答えた。


「僕らと同じホグワーツなんだって。あんまり友達にはなれそうにない感じだったよ」


 ハリーが終わるのを待つために店の人に進められた椅子に座ったは、そう、と言いながらもう一度店の外を見やる。
 すると、器用にアイスを三つ持ったハグリッドが、に向かって笑いかけていた。





2005/11/06 up

ハリーと対面。
お互いに生まれてはじめての友達な二人。
なんとなくほほえましいです。





★ ハリー・ポッターの世界がここに! 本(和・洋)、DVDはもちろん、海外で販売される商品など、
                   ありとあらゆるグッズが勢ぞろい! あなたが探していたグッズ、知らなかったモノが見つかるかもです! ★