18 仁義なき戦い
それは、クリスマス休暇を間近に控えたある日のことだった。
朝の身支度を済ませた生徒たちがごった返す、朝食時の食堂。
そこは全ホグワーツ生徒が集う場所であり、四つの異なる寮が一堂に顔を付き合わせる数少ない機会でもある。
一応テーブルは寮ごとに分けられているが、仕切りがあるわけでも、接触してはいけないという決まりがあるわけでもない。その為、あまり仲のよろしくない寮同士が衝突することもめずらしくないワケで。
中でもグリフィンドール寮とスリザリン寮は、その創設者時代から因縁を持つという、折り紙つきの仲の悪さである。
もうこれは、宿命とでも言うしかないだろう。
この日、最初に火種を撒いたのはスリザリンの生徒だった。
「やあ、ポッター。君はもうクリスマス休暇の予定は立てたのかい?」
グラップとゴイルという子分を引き連れたドラコ・マルフォイが、わざとらしい素振りでグリフィンドールのテーブルに近づいてきたのだ。
ロンと共に朝食をとっていたハリーは、この招かれざる客に顔を歪める。せっかくの朝食が、これで台無し決定だ。
無視を決め込もうと、振り返りもしないハリーを尻目にマルフォイはひどく楽しそうに、くいと顎を上げた。
「ホグワーツ特急は混むからね。帰るつもりなら早めに準備をしたほうが………おっと、これは失礼! 君は帰ってくるなと言われてたんだっけね」
わざとらしく肩をすくめて見せるドラコに、腰ぎんちゃくのグラップとゴイルが下品な笑い声をたてる。
何故だか知らないが、マルフォイは入学した時からハリーに突っかかってばかりいた。
身に覚えのないハリーにはいい迷惑だったが、今となっては、こんな奴と仲良く話をするなんて、想像するだけでも鳥肌が立ちそうだ。
もちろんハリーは聖人君子でも平和主義者でもなかったし、心身ともに健康な元気の有り余る十一歳の男の子だったので、正面きって売られたこの喧嘩を、みすみす買い逃すことはしなかった。
手にしていたフォークを置いて、ドラコを睨み上げる。
「君に心配してもらう必要はないよ、マルフォイ。休暇の予定ならちゃんとできてる」
ホグワーツでのびのび過ごすという、とても素敵な予定が。
ハリーにとって、これは何よりも嬉しいクリスマスプレゼントだった。
あのダーズリーの家へ帰らなくとも、ちゃんと居場所があるのだ。きっとこれまでで、一番のクリスマスになるに違いない。
けれどマルフォイは、へぇ! とオーバーリアクションで驚いて見せた。明らかにバカにしている態度で。
「はみ出し者同士、淋しく傷の舐めあいか。ウィーズリーも残るんだろう? ま、かわいそうな君たちにはお似合いの休暇だな」
「なんだと!?」
侮辱されたロンが、頭に血を上らせて立ち上がった。
今にも机を乗り越えて、マルフォイの胸倉につかみかかりそうな勢いだ。
けれどマルフォイはなおも鼻で笑って言う。
「知ってるか? グリフィンドール生は、かわいそうな子ばかりが選ばれるのさ。君たちの他にもいただろう。クリスマス休暇になっても家族に厄介払いされたままの、君たち以上にかわいそうな貧乏人が」
その一言で、ついにハリーも立ち上がった。
マルフォイが誰を指して言っているかわかったからだ。
ハリーの綺麗な緑色の瞳が、怒りに濃く染まっている。
「それ以上一言でもいってみろ。二度とほうきに乗れなくしてやるぞ、マルフォイ」
「はっ、何をどうするって言うのさ」
嘲るマルフォイも、目の前のハリーをきつくにらみつけた。
意地悪くその口角を上げる。
「の場合、あれはもう気の毒の極地だね。救いようがないよ。グリフィンドールにはかわいそうな奴が多いけど、普段の教材費すらまともに払えないなんて、ぼくなら恥ずかしくて学校になんか………」
「―――おはよう」
その声は、マルフォイたちのすぐ背後から響いた。
決して大きくはない、涼やかな声音。
いや、むしろ抑揚に乏しい無機質な印象のそれは、朝食時の騒がしい喧騒の合間を縫って、怒りに血を昇らせたハリーたちの耳にするりと入り込んできたのだ。
何の気配も感じさせず、唐突に降ってわいた人影にマルフォイたちが驚いて振り返る。
「!」
今まさに話の渦中にあった本人の登場にハリーとロンは目をみはったが、当のは平然と片手を上げて二人に答えただけだった。
まったくいつもと変わらぬ様子でそこに立っている。
突然のことに呆気に取られていたハリーがふとその後ろに視線を向けてみれば、そこにはきつく眉根を寄せてふるふると肩を震わせているハーマイオニーの姿があるではないか。彼女が怒りに震えていることは一目瞭然だった。ものすごい形相でマルフォイたちを睨みつけている。
その様子から察するに、間違いなく二人は先ほどのマルフォイの暴言を聞いてしまったのだろう。それなのに、中傷の的となっていたはずの本人は、けろりとしているばかりだ。
唐突な本人の登場にひどく驚いたマルフォイだったが、何とか気を持ち直すと、再びあの嫌味な笑みを口元に浮かべた。
そして言う。
「やぁ、。今日は先生たちのところに物乞いに行かなくていいのかい? 早くしないと授業が始まってしまうぞ」
グラップとゴイルが声を上げて笑う。
ハリーたちはもう我慢がならなかった。
マルフォイにこれ以上、一言たりとも口を開かせてたまるものか。
ハリーもロンもハーマイオニーも、一度もお互いの意思を確認することはなかったが、その時三人が取った行動はまったく同じだった。
ローブの下にあるそれぞれの杖に、反射的に手を伸ばす。
―――その口、永遠に塞いでくれる。
三人の思いはまさに一つだった。そのみなぎる殺気さえも。
しかし。
「大丈夫。ちゃんと昨日の夜に借りに行った」
は目の前のマルフォイを真っ直ぐに見つめて、至極真面目にこくりと頷いて見せた。
そしてそのまま、あろうことかすいとマルフォイたちの横をすり抜けて、ハリーの隣の席へと腰をおろしてしまう。
その場にいた全員が、あまりにもナチュラルなの動きを呆然とみやった。
確か今、マルフォイはに対して、ひどい侮辱の言葉を吐かなかっただろうか?
まるで確認しあうようにハリーたちは視線を交わしたが、がふと三人を見上げて「朝食、食べないの?」と訊くものだから。
すっかり毒気を抜かれてしまい、促されるままにふらふらとテーブルについた。
「―――? まだ何か用?」
呆然と突っ立ったままでいるマルフォイたちを見上げてが首をかしげる。
するとマルフォイははっとして、次の瞬間にはその青白い顔が、夏場のトマトもかくやというほど真っ赤に染まった。
そして投げやりに踵を返すと、言葉もなくスリザリンのテーブルへ向かって歩き出す。そのスピードはまるで競歩のようで、混みあう食堂の通路を、他人を突き飛ばしながら突き進んだ。その後をグラップとゴイルが慌てて追いかけていく。
は傍若無人なその後ろ姿を見送っていたが、すぐに自分の皿へと向き直った。
そして友人三人に首をかしげて。
「どうしたの、あれ?」
さも不思議そうに問いかけたのだった。
その場にいる以外の全員には、マルフォイがプライドを傷つけられ、言葉もないほどに激怒していることがわかっていたが、しかしには理解できなかったらしい。
けれどハリーは、そんなマルフォイがいい気味だったので、さぁ、どうしたんだろうね、と首を傾げるだけにした。
本当は呪いをかけるどころか、素手で殴りつけてやっても足りないくらいだったが、あれほどプライドを傷つけられたマルフォイの顔を見るのは初めてだったし、今回は特別に見逃してやろう。決して許しはしないけれど。
ハリーは心の中で一人頷き、途中だった朝食を再開するためにゆで卵を一つ手に取った。
「まったく、なんだってスリザリンの連中はああも性格が悪いやつらばかりなんだ?」
ロンが忌々しげに言う。
腹いせとばかりに、皿の上にあったパンを乱暴な手つきで口の中に押し込めた。まるで親の仇のように噛み砕いて。
「創設者の時代からよ。ホグワーツの歴史に書いてあったわ。純血主義で他の三人の創設者とは意見の食い違ったスリザリン。はっ、性格が悪くなきゃ、スリザリンの寮生はつとまらないんでしょ」
憤然と吐き捨てたハーマイオニーが手荒く置いたミルクピッチャーから、白い飛沫がこぼれた。
怒りはまだ治まらない。
ロンとハーマイオニーの二人は、なぜあの時ためらわずに杖を振るわなかったのか、本気で悔やんでいた。
確かに去り際のマルフォイはいい気味だったが、あの程度でチャラにできる訳がない。
ハリーとを侮辱した罪は、海より深く山より高いのだ。ドラゴンに喰わせてもまだ有り余る。
「なるほど。どうりでスネイプが寮監なわけだよ。あいつが親玉なんだ」
ロンは、それほど感心するでもなく肩をすくめてみせた。
スリザリンの寮監セブルス・スネイプ教授は、管理人のフィルチと並んでホグワーツ生徒の敵だったが、特にグリフィンドール生にとってはまさに天敵だった。
彼のおかげで、どれほど理不尽な減点で寮の点数が失われたことか。
もちろん、フレッドとジョージのように、正当な理由で彼から減点をくらうこともしばしばだったが。
スネイプが教師になったことは、このホグワーツの、七つじゃ足りない不思議の中の一つだとハリーたちは固く信じている。
その時ふと、ロンがハリーの隣に座るに視線を移した。
「でも、そういえばって、グリフィンドール生の中では一番スネイプに友好的じゃない?」
皿の上のスクランブルエッグをつついていたは、そんなロンに顔を上げる。
僅かに首をかしげて。
「そう?」
尋ね返すと、ロンはこっくりと頷いた。
「そうだよ。スネイプだって、授業で未だに注意してないのはだけだ」
「あら、それはが優秀だからよ」
ハリーたちが入学して魔法薬学の授業が始まって以来、による奇跡のミス知らず記録は未だに更新中だ。
はじめの頃はことさら忌々しげな顔をしていたスネイプも、最近では大分なれてきたようで、の作った薬を見ても眉間の皺が若干深くなる程度におさまっている。
それでもそんな時のスネイプの姿は、他のグリフィンドール生たちにとって、ささやかな憂さ晴らしになっていた。
「それでもやっぱり、ぼくらの中ではが一番スネイプに友好的だよ。、君、まさかとは思うけど、あいつのこと好きとか言ったりしないよね」
ここでロンの言う好きは、教師に対する敬愛を意味するが、は手にしていたフォークを止めると、しばらく考えて言った。
「………普通」
「普通?」
ロンが首をかしげる。
はこくりと頷くと、もう一度「普通」と答えた。
そうされたロンは、眉をしかめたまま腕を組んで。
「うーん、ふつうかぁ。それでも格別な評価のような気がするけど……。でも良かったよ。これで好きとか言われてたら、ボク、自信なくしちゃうところだった。ようやく最近になって、少しのことが解ってきたと思ってたのにさ」
あははと笑うロン。
はそんなロンを無表情に見やっている。
何を考えているのか、いまいちよくわからない。
「ちなみに、マルフォイのやつは?」
ふと、横合いからハリーが尋ねてみた。
するとは。
「………どうでもいい?」
と、首をかしげて言うものだから。
ロンはますます、いい気味だとばかりに笑いを高くした。
あのマルフォイをどうでもいいと切り捨てたことに、いたく気分を良くしたらしい。
しかしこのとき彼は知らなかったのだ。
の中のあらゆる人物評価が、一体どうやってなされているかということを。
平和そうに笑うロンを前に、は何食わぬ顔でミルクのコップを傾けている。
そう、なにを隠そう、彼女の中のカテゴリーはたったの二つ。
―――『ふつう』もしくは『どうでもいい』
出会った全ての人物は、問答無用で淀みなくこの二つに分類される。
例外はあり得ない。
ロン、ハーマイオニー、ハリーの三人も、見事の『ふつう』ランクにランクインされているのだ。
そんな二人の光景を見ていたハリーとハーマイオニーは、どちらからともなくちらりと視線を交わす。
何となく、の言葉の裏にあるその真相に気づいたのだ。
しかし、せっかくロンが安堵しているのに、わざわざ打ち砕くのも不憫だったので。
ここはあえて黙っていようと、無言で頷きあったのだった。
結局。
あははと平和に笑うロンが、事の真相にようやく気づき。
この難解な友人のことを思って、再びその赤い頭を悩ませることになるのは、もうしばらく後の話。
シンプルなのか、複雑なのか。
とりあえず、変わっているには違いない。
ロンの苦悩はこの先も続く……かも。
――― 勝手にうんちく ごがつじゅうさん ―――
New!DVD ハリー・ポッターと炎のゴブレット 特別版
★★★★☆
★ 評価は五段階 ★
ハリポタ映画の第四弾、『炎のゴブレット』です。
映画館で観られた方も多いのではないでしょうか?
もしかしたら、
「いいえ、私は映画のあのダイジェスト版のような展開の速さが許せなくってよッ! ええ、許すものですか!」
…………と、いうような、どこぞの私の友人のごとく、原作派な方もいらっしゃるかもしれませんね。
確かに映画の方は時間の制限もあり、多くの部分がズッパリバッサリ切り捨てられています。
ああ、特にシリウスのあの扱いは………。
いえ、確かに、今回彼はそれほど重要ではないのですが、それでも、ねぇ?
などと愚痴っている場合ではありません。
かくいう私はしっかり映画館で観てきました。 本当は吹き替え版が観たかったんですけど、
あいにくその日の吹き替え版のチケットは完売で……。
普段はあまり見ない、字幕で観賞です。
見所は、相変わらず迫力満点のアクションシーンももちろんですが、やっぱり一番の管理人的オススメは
エマ・ワトソン演じるハーマイオニーのドレスアップ姿!
これに限りますとも!
もう、すっごいきれい。とってもきれい。溜め息出るほどきれい。
正直なところ、今回初登場となるチョウ・チャンは、ビジュアル的にちょっと期待はずれ。
ハリーの気を一瞬で惹きつけるにしては、どうも色気が足りないような気がします。
そこをいくと、ハーマイオニーの成長ぶりにはもう仰天もの。 淡い色の美しいドレスが、
彼女の魅力を十分に引き出してくれています。アップにした髪も素敵。
もうほんと、『グッジョブ、スタイリストさん!』って感じですね。
内容に関しては賛否両論で、原作を読んでない人にはわかりにくい部分も多々見受けられます。
私も原作の炎のゴブレットはまだ読んでいないのでよくわかるのですが、
細かい設定や状況などの説明が一切はぶかれているんです。
なので最初は 「ん?」 と思うことが多いのですが、しかし話が進むにつれ、
その今までに増した本格的なアクションシーンとちょっぴり大人な展開に
意識はぐんぐん話の中へと引き込まれていきます。
ハリー・ポッターをまったく知らないという人にはお勧めしませんが、
少なくとも三作まで知っている方なら大丈夫なんじゃないかと思います。
ということで、星の評価は四つ。
あっ! そうそう、大事なことを忘れるところでした。
炎のゴブレットの見所をもう一つ。
あの陰険で陰湿でちょっぴり根暗そうなスネイプ先生。
そんな彼の印象が、がらりと変わる一瞬があるのです!
あれにはもう、笑いをこらえるのがたいへん。
ここであまり詳しく言うのは避けますが、スネイプ先生好きにはたまりませんね!
最高です、先生。(笑)
ハリーポッターと謎のプリンス 日本語版
★★★★★
待ちに待ったハリー・ポッターシリーズの第六作目の日本語版!
ついに発売日決定です!(ドンドンパフー)
原書に挑戦されている方も多々いらっしゃるようで、Web上では
六巻の話題がまことしやかに交わされておりました。
英語の出来ない人間にはまさに生き地獄!(←大袈裟)
ああ、ですがしかし!
ついにきたのですよ、皆さん! 来るべき日が!(笑)
ここでは多くは語れません。
ていうか、語る必要もないでしょう。(そしてネタもない)
発売日は2006年5月17日の水曜日。
確実に手に入れたい方は、予約をお勧めします。はい。
New!ハリー・ポッターと賢者の石 携帯版(B6サイズ)
★★★★★
みなさまご存知の『ハリー・ポッターと賢者の石』。
あのミリオンセラー作品の第一作目です。
今さらと思われるかもしれないですがこの携帯版は、これから買おうと思っている人、
読み始めようか迷っている人、外でもハリポタ読みたいよう! という人にはぜひお勧めしたいです。
内容はハードカバーの本とまったく変わりませんが、サイズが随分とコンパクトなんです。
一度読み始めると止まらない面白さのハリポタ。
しかし、通勤や通学の途中にバスや電車の中であのハードカバーの本を開くのは一苦労です。
ていうかむしろ無謀。
腕がぷるぷるします。 経験済みです、はい。
そんなときに見つけたのがこの携帯版。
文庫本の豪華版だと思ってください。
サイズはB6で、表紙も新しくなっています。
もちろんハードカバーの表紙の絵は、中にカラーページとして収録されていますのでご安心を。
内容はハードカバーとまったく変わらず、コンパクトなサイズとなってあなたの外出先にお供してくれるのです。
仕事場へも学校へも、旅先へも自由自在。
「すごい人気だけど、まだ読んでないんだよねぇ」
「ちょっと高いしなぁ……。どうしようかなぁ」
という人にはお勧めしたい一品です。
もうすでにハードカバーをお持ちの方も、そちらは家でまったりティータイムに。
こちらの携帯版は、社会の喧騒に疲れた時の現実逃避に………。
それぞれ使い分けてみるのもいいかもしれません。
ハード・カバーは保存版に最適ですからねぇ。
この携帯版は現在、『賢者の石』・『秘密の部屋』・『アズカバンの囚人』が出されています。
お試しに買ってみるには最適な価格かと。
あなたもハリーの世界へ足を踏み入れてみませんか?
こう、ずずいっと。
特典映像のディスクもちゃんとついているこの廉価版。期間限定で付いている帯の裏面には、携帯の特別待ち受け画像がもらえる秘密のパスワードが! 持ってないあなたは今がチャンスです! ★
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