★ シリーズ第6作『ハリーポッターと謎のプリンス』日本語版ついに発売!!
          とうとう六年生になったハリー。恋の行方は? プリンスの正体は? ハリーたちのたどり着く先を見届けるのはあなた! ★







 17 Let's! 危険なスポーツ






 同じぐらいの高さで向き合った瞳は、とても静かな色をしていた。
 底知れない深さを感じさせるその無表情に、思わずごくりと喉をならすハリー。

 そして、何故だか張り詰めたような沈黙の後……。



「…………頑張って、ハリー」

「……ありがとう、………」



 不治の病でも宣告されるのかと思った。







 クィディッチ競技場。
 いつもは授業に使われる以外、一般の生徒はほとんど足を踏み入れないその場所が、これ以上ないほどの熱気と興奮に溢れかえっていた。
 各寮のシンボルカラーに埋められた観客席は、選手の登場を今か今かと待ちわびている。

 今日はシーズン初日。

 最年少で寮代表となったハリー・ポッターのデビュー戦。

 対戦相手は永遠の宿敵、スリザリンだ。


は応援に向いてないよな」


 皆で作ったハリー用の応援旗を用意していた時、不意にシェーマスがそんなことを言った。
 旗の端を引っ張っていたは、二、三度目をまたたいて顔をあげる。

 文字やイラストをあしらった元シーツは、スキャバーズがかじったとかでやぶれたリサイクル品だ。


「………そう?」


 しばらく考えてから、は首をかしげた。
 わかりにくいが、なりに不思議そうな顔をしている。
 シェーマスは、そうさと頷いて。


「だって今朝のハリーを見たかい? まるでお通夜みたいな顔色だったじゃないか」

「そうそう。あれにはもうダメかと思ったね」


 向かいで旗の端を持っていたロン。
 口には出さないが、今朝の一連のやり取りを見ていた面々はみんな、ほとんど同じ意見だった。

 刻一刻と迫るデビュー戦を前に、朝からカチカチに緊張していたハリー。
 皆が口々に励ます中で、も例にもれず、友人である彼に激励をおくったのだ。

 頑張って―――と。

 励ましの言葉としては最もポピュラーであるはずのその言葉。
 しかしそれが、抑揚も乏しく、ともすれば重々しい響きにすら聞こえることもある、特有のあの口調で告げられた途端、その言葉が持つ元々の効力は闇のかなたへと消え去っていた。
 向かい合ったハリーは力なくうなだれて。

 そんな二人の会話を横で聞いていたフレッドとジョージは、青い顔で礼を述べるハリーの隣で大爆笑していた。


「……………」


 今朝のことを思い浮かべた面々は、旗を持ちつつ思わずツイと視線を逸らす。

 確かにの落ち着いた口調は、時に鉄か鉛で出来ているように無機質に響くこともある。
 だがしかし、間違えてはいけない。
 彼女の言葉は善意にあふれている。
 そう、たとえそれが、死刑判決を告げる裁判官の声のように聞こえたとしても。

 間違いなく今朝のは、ハリーに対してあらん限りの思いやりと励ましを表現していた――――のだけれど。
 その場にいた誰もが、シェーマスやロンの言葉を否定することは出来なかった。
 そうして結局は、は応援に向かないというシェーマスの意見へとたどり着いてしまうのだ。


「………あ、ねぇ、ほら! ハリーたちよ!」


 妙な沈黙が落ちかけた時、パチルが上空を指差して声をあげた。
 なんていいタイミングだろうと、全員がそちらを見上げる。

 箒に乗って入場してきた選手陣は、競技場を大きくぐるりと旋回して大歓声に応えていた。
 グリフィンドールの一年生ズは、せーのの掛け声で大きなシーツの旗を目一杯広げる。

 はためく『ポッターを大統領に』という文字。
 ハーマイオニーの魔法によって色とりどりに光るそれを持ちながら、がふと呟いた。


「…………………どうして大統領?」


 それは、尤も(もっとも)かつシンプルな疑問。

 しかしその場にいた全員がの呟きを、周囲の波のような歓声にまぎれて聞こえなかったことにした。











           *











「ちょいと詰めてくれや」と。

 小屋の方で見物していたハグリッドがのっそりと現れてから、しばらくした時のこと。
 その異変は唐突に起こった。


「いったいハリーは何しとるんだ?」


 双眼鏡を覗き込んでいるハグリッドが、そう言って頭上を見上げる。
 真っ青な空。
 まさにクィディッチ日和の大空を、赤と緑のユニフォームが縦横無尽に駆け回る中、一つだけ。
 遥か上空で待機していた赤いユニフォームが、妙な動きを見せたのだ。
 それは、獅子寮の期待を一身に集める我らがシーカー、ハリー・ポッターで。

 まだその活躍は見られないまでも、一緒に飛行訓練を受けたグリフィンドール生たちは皆、彼のその見事な箒さばきを知っている。
 ましてや今ハリーが使っているのは、一癖も二癖もある学校の箒などではなく、あの有名なニンバス2000なのだ。
 まさか初めての授業の時のネビルのように、箒のコントロールを失ったなどとは誰も思いはしない。

 しかしハグリッドの呟きに気づいたが、遥か上空のハリーへ目をやったその時。
 わぁっ、という悲鳴が観客席のあちこちから上がった。
 試合の興奮からではない喧騒が広がる。

 上空で機会を窺っていたはずのハリーの箒が突然ぐるぐると回りだし、乗っていたハリーを振り落とそうとし始めたのだ。


「ハリー!」


 ハーマイオニーやロンが思わず腰を浮かして叫ぶ。
 もその場に立ち上がった。

 激しく震える箒。
 片手で何とかぶら下がっている状態のハリーは、いつ落ちてもおかしくない。
 あの高さから落ちればどういうことになるか。
 考えたくもない事実だ。


「フリントがぶつかった時、どうかしちゃったのかな」


 蒼白なシェーマスの呟きに、ハリーから目を離すことなくハグリッドが首を横にふる。


「そんなこたぁない。強力な闇の魔術以外、箒に悪さなんぞできん。チビどもなんぞ―――」

「闇の魔術?」


 眉をひそめて上空を見上げていたが、ハグリッドの言葉を聞きとがめるように視線をむけた。
 訝しげな表情を浮かべるだったが、しかしそのすぐ後に何かに気づいたらしいハーマイオニーが、ひったくるようにハグリッドから双眼鏡を奪い取る。
 彼女が覗いた先は、今にも落ちそうなハリーではなく向かい側のスタンド―――職員来客者用観客席。


「なにしてるんだよ」

「思ったとおりだわ………」


 なめるように双眼鏡で観客席を見回していたハーマイオニーが、ある一点で動きを止めてそう呟いた。
 隣で問い掛けてくるロンに双眼鏡を差し出す。


「スネイプよ……見てごらんなさい」


 ロンは大急ぎでハーマイオニーの示した先を見た。
 そこにいるのはスネイプ。


「ほんとだ……何かしてる」


 呟いたロンの声は僅かに震えているようだった。
 はロンから双眼鏡を受け取り、同じように覗き込む。
 しかしその間にハーマイオニーが、杖をローブの下に隠し持ち、ひとり行動を開始した。
 ロンの、僕たちどうすりゃいいんだ? という問いに頼もしく答えて。


「私に任せて」

「ハーマイオニー? 待っ………」


 その行動に気づいたが呼び止めようとするも、ハーマイオニーは驚くべき素早さで人ごみへと姿を消してしまう。
 観客は皆ハリーのことに釘付けで、誰も彼女に気づいてはいないようだった。
 一体ハーマイオニーがどこへ向かったのか、何をするつもりなのかわからないとロンは、とにかく状況を見守るためにコートへと視線を戻す。


「早くしてくれ、ハーマイオニー」


 祈るようなロンの呟き。
 しかしはハリーの安否を確かめるのではなく、再びハグリッド用の大きな双眼鏡を覗き込むと、先程ハーマイオニーが示していた方向をもう一度確認しはじめた。

 職員来客者用観客席。

 確かにスネイプが、ハリーの箒を一心に見つめ何事か口にしているのが見える。
 しかし、僅かに感じるこの違和感はなんだろう。
 どこかピントが合っていないような、そんな感覚。

 ハーマイオニーが言うように、スネイプが何かをしているのは明白だというのに、その違和感がは妙に引っかかった。
 双眼鏡の視点をゆっくりとずらし、スネイプの周囲へとその範囲を広げる。


「―――ハーマイオニー」


 生徒用の観客席と違い、統一感の見られないローブの居並ぶその隙間に、栗色のウェーブヘアがちらりと覗いたのをは見つけた。
 ハーマイオニーはスネイプを目指しているらしい。
 人ごみの中を一直線に突き進む彼女が通った後ろのほうで、誰かが転んだのか小さなざわめきがおこっていた。


、ハーマイオニーはまだなのか!?」

「わからない……今、スネイプ先生の後ろの席にもぐりこんだけど」


 いまや人々の視線は、宙吊り状態のハリーに釘付けになっている。
 誰も、足元で素早く動き回る影に気づいていない。
 上空のハリーを一心に見つめ、何事か呟いているスネイプも。


「あっ!」


 そう声をあげたロンと同じように、競技場全体が安堵の歓声をあげるのと、スネイプが己の異変に気づくのとはほぼ同時だった。
 の覗く双眼鏡には、ローブの裾に突然火がついたことに仰天するスネイプの姿がある。
 その周囲の教職員も、驚き慌てだして。


「ハリーがスニッチを取ったぞ! ほら、!」

「え?」


 ロンに強く袖を引かれ、は双眼鏡から目を離さざるをえなかった。
 見れば競技場の真ん中で、ほうきから降りてしまってはいるものの、右手に持った金色のスニッチを高く掲げているハリーの姿が。
 場内は割れんばかりの歓声に包まれていた。


「やった! やったよ! ハリーがやった!!」


 隣のネビルが飛び跳ねながら大興奮している。
 観客は総立ちで、対戦相手のスリザリン以外は大騒ぎだ。






 結局。

 その後スリザリンのフリントが、ハリーはスニッチをとったのではなく飲み込んだのだという主張を繰り返したが、グリフィンドール側の勝利がくつがえる事はなかった。
 デビュー戦でいきなりトラブルに遭遇しながらも、見事なファインプレーでチームを勝利に導いたハリーは一躍ヒーローになったのだが、しかし本人は試合後の興奮冷めやらぬ喧騒から身を遠ざけていた。
 騒がしさを嫌ったわけではない。
 三人の友人たちと共に、重大な事実を告げるためハグリッドの小屋に集まっていたのだ。

 ロンとハーマイオニーは、自分たちが見たこと、やったことを全てハグリッドに話した。
 クィディッチの試合のこと、そしてスネイプが、あの立ち入り禁止の部屋から何かを盗もうとしていたということを。


「バカな。なんだってスネイプ教授がそんなことをせにゃならん。ホグワーツの教師だぞ」


 ハグリッドは二人の主張に顔を歪める。
 確かにスネイプは呪いをかけていたのだというハーマイオニーの言葉にも、強く反発した。


、君も見ただろう? ハグリッドに話してやってくれよ」


 先ほどからずっと黙ったままでいるに、ロンは溜め息と共に助言を求めた。
 は二、三度瞳を瞬かせて。


「確かに、スネイプ先生はなにか呪文を唱えているようだった。それはハーマイオニーの言うとおりよ。ただ………」

「ただ?」


 言いよどんだに、ハリーが首をかしげて先を促す。
 元々口数が多くないは、一度黙ると話が途中だろうとなんだろうと沈黙してしまうことがあるのだが、こうして促されればそれを拒否することはない。
 それでもいくらか思案するような間をおいて、は口を開いた。


「どこか、違う気がしたの。確信はないけど、何となく、違和感みたいな………」


 自分が感じたものを表現するのが難しいのだろう。は言葉を探しながら、僅かに目を細めている。
 けれどはっきりしないその様子に、ロンは眉をひそめて。


「なんだい、曖昧だなぁ。確かにスネイプはハリーに呪文をかけてたんだ。それで十分じゃないか」


 そう言って再びハグリッドに訴えたが、はまだ何事か考えているようだった。目の前に置かれた紅茶のカップから、視線を上げようとしない。
 ハリーはそんなの様子が気になって、ハグリッド相手に主張を繰り返しているロンとハーマイオニーを尻目に、そっとその顔を覗き込んだ。


、どうしかしたの?」


 常から無表情なその顔が、いつもよりどことなく影っているように見えたのだ。
 ひそりと話しかけられたは、ふと顔を上げる。
 そのポーカーフェイスから変化を読み取るのは難しいが、今回はハリーの勘のようなものが働いたらしい。
 しかし当のは、とても不思議そうな顔をして。


「どうして?」


 と、首を傾げて見せる。
 そうされたハリーは若干困った。


「え、いや、どうしてってわけじゃないけど、何となく………」

「そう」


 曖昧なハリーの返答にはあっさり頷くと、なんでもないんだと頭をふった。
 その表情には、ハリーが先ほど感じた影りなどどこにも見当たらず、まったくいつもどおりだったものだから。


「―――いいか、おまえさんたちは関係のないことに首を突っ込んどる。危険だ。あの犬のことも、あの犬が守ってる物のことも忘れるんだ。あれはダンブルドアとニコラス・フラメルの………」

「あっ!」


 ハグリッドがぽろりと漏らした重要な単語に、ハリーは耳ざとく食いついた。
 身を乗り出してハグリッドに詰め寄る。

 ニコラス・フラメルという人が関係しているんだね、と。

 そうしてハリーは、今起こっている出来事の重大なキーワードを手に入れることができたが、の僅かな変化の正体を知ることはできなかった。


 ハリーに顔を覗き込まれる直前。

 が紅茶のカップを見ながら思い出していたのは、豹変したクィレル教授に遭遇し、生まれて初めて感じたあの奇妙な感覚のことだった。







2006/04/29 up

魔法界は命がけが多い。
規則を破った時のペナルティとか。


――― 勝手にうんちく しがつにじゅうく ―――

★ 評価は五段階 ★

ハリーポッターと謎のプリンス 日本語版  ★★★★★
     待ちに待ったハリー・ポッターシリーズの第六作目の日本語版!
     ついに発売日決定です!(ドンドンパフー)
     原書に挑戦されている方も多々いらっしゃるようで、Web上では
     六巻の話題がまことしやかに交わされておりました。
     英語の出来ない人間にはまさに生き地獄!(←大袈裟)
     ああ、ですがしかし!
     ついにきたのですよ、皆さん! 来るべき日が!(笑)
     ここでは多くは語れません。
     ていうか、語る必要もないでしょう。(そしてネタもない)
     発売日は2006年5月17日の水曜日。
     確実に手に入れたい方は、予約をお勧めします。はい。


New!ハリー・ポッターと賢者の石 携帯版(B6サイズ)  ★★★★★
     みなさまご存知の『ハリー・ポッターと賢者の石』。
     あのミリオンセラー作品の第一作目です。
     今さらと思われるかもしれないですがこの携帯版は、これから買おうと思っている人、
     読み始めようか迷っている人、外でもハリポタ読みたいよう! という人にはぜひお勧めしたいです。
     内容はハードカバーの本とまったく変わりませんが、サイズが随分とコンパクトなんです。
     一度読み始めると止まらない面白さのハリポタ。
     しかし、通勤や通学の途中にバスや電車の中であのハードカバーの本を開くのは一苦労です。
     ていうかむしろ無謀。
     腕がぷるぷるします。 経験済みです、はい。
     そんなときに見つけたのがこの携帯版。
     文庫本の豪華版だと思ってください。
     サイズはB6で、表紙も新しくなっています。
     もちろんハードカバーの表紙の絵は、中にカラーページとして収録されていますのでご安心を。
     内容はハードカバーとまったく変わらず、コンパクトなサイズとなってあなたの外出先にお供してくれるのです。
     仕事場へも学校へも、旅先へも自由自在。

     「すごい人気だけど、まだ読んでないんだよねぇ」
     「ちょっと高いしなぁ……。どうしようかなぁ」

     という人にはお勧めしたい一品です。

     もうすでにハードカバーをお持ちの方も、そちらは家でまったりティータイムに。
     こちらの携帯版は、社会の喧騒に疲れた時の現実逃避に………。
     それぞれ使い分けてみるのもいいかもしれません。
     ハード・カバーは保存版に最適ですからねぇ。
     この携帯版は現在、『賢者の石』・『秘密の部屋』・『アズカバンの囚人』が出されています。
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     あなたもハリーの世界へ足を踏み入れてみませんか?
     こう、ずずいっと。


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