★ シリーズ第6作『ハリーポッターと謎のプリンス』日本語版の発売日迫る! 2006/5/17の水曜日が運命の日。
          とうとう六年生になったハリー。恋の行方は? プリンスの正体は? ハリーたちのたどり着く先を見届けるのはあなた! ★







 15 冬のホグワーツ






 十一月。
 それは冬の訪れを告げる月。
 オレンジ色を思わせる秋の空気はいつのまにか、少しだけ物悲しい薄灰色の風に塗り替えられて。

 ここホグワーツにも、確かな冬の痕跡がそこここに広がっていた。

 朝には霜が降り、湖の水は冷たく張り詰め、周囲に広がる深い山々の木々は灰色に染まる。
 学校内では、森番のハグリッドがすっかり冬の支度を整えて、クィディッチ競技場の箒についた霜取りにせっせと精を出し、生徒たちは来るクィディッチシーズンに胸を躍らせている。

 そして、城内のとある廊下の片隅では………。



―――っ!?」



 寒さにやられ無情にも、力尽きて転がる生徒の姿があった。








 その場の空気すら吹き飛ばす大絶叫に、それまでの静寂はぶち破られる。石造りの壁や床にわんわんと反響して。
 もしかしたら学校中に聞こえているかもしれないと、呼ばれた張本人であるは、冷たい床に頬をひっつけたままぼんやり思った。

 ここはホグワーツ魔法魔術学校、その城内のとある廊下………の、床の上。
 しんしんと冷気の立ち込めるその場所に、大絶叫の元ネタであるは倒れ伏していた。


「な、な、何してるのよあなたはーっ!」


 駆け寄ってきたのは第一発見者のハーマイオニー・グレンジャー。
 大絶叫の主であり、のルームメイトであり、つい最近できたばかりの友人でもある。

 そんな彼女が目の前に膝をつくのを、はうつ伏せに倒れたままの状態で見上げた。
 そして僅かに白い息を吐きながらのたまう。


「………………眠くて」

「っっっ死ぬわよ!!」


 どうやらハーマイオニーはご立腹のようだった。
 怒鳴られても身動きしようとしないの身体を、半ば無理やり引き起こす。
 素肌を床に密着させていた手や頬は氷のように冷たくなっていて。
 何とか座らせたの肩をがっしとつかんで、焦点のいまいち合っていないその目を覗き込んだ。


「いい、? 人間はね、寒いところで寝ているとそのままぽっくり逝くものなのよ。魔法界でもそれは一緒! 首無しニックみたいにゴーストになりたくなければ、こんな廊下の真ん中で寝たりしちゃ、ダメ!」


 ハーマイオニーは、のその脳みそに叩き込むかのごとく、一言一言はっきりと言う。
 いつも感情の見えないの瞳は普段にもまして無表情で、まぶたは半分おりかかり、このまま放置すればそのまま眠ってしまうことだろう。

 まだお互いにただのルームメイトだったころ。

 ハーマイオニーはという人物を、何でも完璧にこなしてしまう優等生だと思っていた。
 ほとんどの授業で彼女は常にその才能を発揮し、実技で出来なかったところなど見たことがない。
 加えて同い年とは思えないほどのその落ち着き具合は、人間としてもどこか完成されているように思えて。
 そのそつのなさが、必死で勉強している人間にとってはあまり面白くなかった。
 同じマグル出身ということも手伝っていたのかもしれない。
 授業でが成果を見せる度、言いようのない競争心と僅かな嫉妬を抱いていたのも事実。

 そんなこんなが重なって、同じ部屋で寝起きを共にしていながらなんとなく距離を置いた関係になっていた。
 もっとものほうは、誰とでも必要以上に近づくようなことはなかったようだけれど。

 しかしこうして友人として付き合うようになって早数日。
 そんなハーマイオニーの中の像は、他でもない本人によってものの見事に粉砕され、その残骸すらきれいさっぱり風にさらわれて、跡形もなく消えうせるのに大した時間はかからなかった。

 確かに授業では優秀で、落ち着いた物腰は以前となんら変わらない。
 だがしかし彼女は時に、周囲の人間には及びもつかないような突飛な行動を、何の前触れもなくとる人間だったのだ。
 例えばそう、今現在のように、人通りの少ない冷たい廊下で倒れこんでいたり。

 ハーマイオニーの言葉を反芻しているのか、しばらくぼんやりしていたは、ふと焦点をあわせて言った。


「大丈夫。凍死で首はちぎれない」

「そういう問題じゃないわよ!」


 見当違いの言葉を吐くに、再びハーマイオニーの叫びが木霊する。
 放っておけばこの子はいつか本当に死ぬんじゃないだろうかという不安が、ハーマイオニーの胸に去来していた。
 それはけっこう切実だった。
 よく今まで一人でいて死ななかったものだと思わずにはいられない。

 優秀で、なんでもそつなくこなす優等生。
 そんなハーマイオニーの中の偶像はもっぱら 『放っておいては危険な子』 に変貌し、定着しつつある。
 学校内で友達が行き倒れるなど、夢見の悪いことこの上ない。


「ほら、とにかく立って。寮に戻るわよ」


 ハーマイオニーは冷たい床に座り込むを立たせ、その手を引いて寮へ向かって歩き出す。
 ふらふらとおぼつかない足取りながらもハーマイオニーについて歩いていたは、しばらくしてからふと声を上げた。


「ハーマイオニー、私、図書館に行く途中だったんだけど………」


 背後から聞こえたその言葉を。
 ずんずん進むハーマイオニーは、もちろん黙殺したのだった。









           *









 グリフィンドールの談話室では、十人前後の寮生たちがくつろいでいた。
 冷たい廊下からの手を引いて帰還したハーマイオニーは、そのまま暖炉の近くのソファにを座らせる。
 そしてすぐさま女子寮に向かい、一枚のショールを持って戻ってきた。
 それを問答無用でにかぶせ。


「ハーマイオニー、私、病人じゃな………」

「凍死体のなりそこないよ」


 あっさりばっさり切り捨てた。
 もとより無口なほうの
 そうされて次げる二の句のあるはずもない。
 仕方がないので大人しくショールにくるまり、目の前のぱちぱちと燃える暖炉の炎を見つめた。

 氷のようだった頬や手が、ジンとした感覚を伴って急激に温度を取り戻す。
 隣に座ったハーマイオニーはすっかり呆れ顔だ。
 それはそうだろう。
 この寒い中、冬用のマントも着けずに歩き回り、あまつさえ廊下の真ん中で倒れ伏していたのだから。

 談話室にいたグリフィンドール生たちは、若干血色の悪い顔をしたが運び込まれたことに好奇の目を向けていた。


「なにかあったのか?」


 ちょうどそこに、赤毛のウィーズリー一家の一人である、パーシーが寮のほうから現れた。
 どうやら監督生である彼は、談話室の妙な雰囲気に気づいたらしい。
 その注目を集めている中心を見止めると、たちの方へ近づいてきた。


にハーマイオニー。どうかしたのか?」


 ソファの上でショールにくるまると、その横に寄り添っているハーマイオニーを見下ろして首を傾げる。
 しかしそれに答えたのは目の前の二人ではなかった。


「心配は無用さ、パーシー」

「そうとも。君が心配するようなことは何もない」


 いつの間に現れたのか、パーシーの両脇からひょっこり顔を覗かせる二つの顔。彼らはまったく同じ笑顔を浮かべてそうのたまった。
 パーシーと同じ燃えるような赤毛が揺れる。

 本拠地はグリフィンドール、その出没区域はホグワーツ全体。
 彼らが通った後には必ず誰かの悲鳴が上がるともっぱらの評判の、双子のウィーズリーことフレッドとジョージだった。

 パーシーは少しだけ顔を歪めてその弟たちを振り返る。
 しかし二人はくいと肩をすくめ、それぞれパーシーの肩に片手を置いて。


「多分、がまたどこかの廊下ででも寝こけているところを拾われたんだ」


 ジョージがそう言い、フレッドがハーマイオニーに、なあ? と問いかけた。
 彼らを見上げていたハーマイオニーはこくこくと頷く。


「「ほーら、何も心配ない」」

「大ありだ!」


 ぐっと親指を立ててみせる二人の弟たちに向かって、彼らとは似ても似つかない性格のパーシーは叫んだ。

 いくら真冬ではないとはいえ、息も白いこの時期に屋外で寝こけるなど、うっかり凍えてしまっても文句は言えない。
 ましてやそのまま夜になどなってしまえば、風邪をひくぐらいではすまないだろう。
 自分が監督生をしているこの年に、まさか寮から凍死者をだすだなんてそんなこと、とてもじゃないが見過ごせるわけがなかった。


「パース、君は自分が監督生じゃなければ寮からゴーストが出てもかまわないのか?」

「それにが寝ていたのは屋外じゃない。ホグワーツの城内だ」


 フレッドとジョージが両脇でのたまう。
 決して口に出していたわけではない思考になぜか突っ込まれて、パーシーは怒りに顔を赤くした。


「そんな問題じゃないだろう! それに僕は監督生だ、責任がある! もちろん、たとえ一般の生徒であったとしても、下級生の事故を未然に防ぐのは上級生として、また同じ寮生としてやぶさかではないがしかし………」


 このまま放っておけばパーシーの演説は延々と続きそうだった。
 しかしもうすでに心得ているのか、はたまたただの性格なのか、双子のウィーズリーは兄の言葉を皆まで聞かず、ぐいとその身体を押しのけて、ソファの上でショールにくるまるの顔を覗き込む。
 いつもと変わらぬ、好奇心旺盛な笑みを浮かべて。


、また死にかけたのか?」

「この前の時に気をつけろって言っただろ。今度はどこで倒れたんだ?」


 心配しつつもその顔は憚ることなく楽しそうだ。
 それに対するは相変わらずの無表情で、図書館に行く途中の廊下………の脇道、などと答えている。
 フレッドとジョージはそれに腹を抱えて笑い、はそんな二人の普段は見られない旋毛を見ていた。(ひょろりと背の高い双子とでは、その身長差が甚大だ)
 しかし隣にいたハーマイオニーが、ふと首を傾げる。


「どうして二人はが倒れてたって解ったの?」


 自分は一度も説明していないのに、と。
 パーシーに尋ねられた後、すぐさまフレッドとジョージが割り込んできたので答えられなかったのだ。

 ハーマイオニーのもっともなその問いに、身体が折れるほど爆笑していた二人は顔を見合わせる。
 そして身を起こし、おもむろに答えた。


「それはもちろん、ついこのあいだ僕らもを拾ったところだからさ」

「あの時は隠し通路のど真ん中に倒れてて、危うく踏んづけてしまうところだったよな」


 一体どこから入り込んだのかは解らなかったが、自分たち以外に知る人間はいないはずの隠し通路で、は五体倒置よろしく倒れ伏していたのだ。
 その日も確か、寒い日だった。
 相変わらずはマントをつけていなくて。
 双子いわく、本気で死体かと思ったそうだ。

 とうとう死体にまで間違えられてしまった本人はしかし、聞いているのかいないのかよく解らない顔でぼんやりとしている。
 どうやら今度は程よく身体が温まり、そのせいで眠気をもよおしているらしい。

 しかしハーマイオニーは、いつもよりも力のない瞳で視線をさ迷わせるの両肩をがっしとつかんでこちらを向かせ。


「あなた、その魔法の才能を一ミリでいいから生存本能にまわしなさいよ!」


 泣き出しそうな勢いでそう叫んだ。




 それ以来、とハーマイオニーの距離はより一層縮まったのだとか。

 時折、ふらふらと出かけたきり帰ってこないの姿を捜し歩くハーマイオニーの姿が、冬のホグワーツで目撃されるようになったという。


 彼女の苦労は春になれば報われる…………はずである。






2006/03/12 up

苦労性ハーマイオニーの完成。
原因は全面的にヒロインです。


――― 勝手にうんちく さんがつじゅうに ―――

★ 評価は五段階 ★

ハリーポッターと謎のプリンス 日本語版  ★★★★★
     待ちに待ったハリー・ポッターシリーズの第六作目の日本語版!
     ついに発売日決定です!(ドンドンパフー)
     原書に挑戦されている方も多々いらっしゃるようで、Web上では
     六巻の話題がまことしやかに交わされておりました。
     英語の出来ない人間にはまさに生き地獄!(←大袈裟)
     ああ、ですがしかし!
     ついにきたのですよ、皆さん! 来るべき日が!(笑)
     ここでは多くは語れません。
     ていうか、語る必要もないでしょう。(そしてネタもない)
     発売日は2006年5月17日の水曜日。
     確実に手に入れたい方は、予約をお勧めします。はい。


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