★ ”恋愛対象7人同時攻略” ができるなんて………あなた知ってました?
                  これぞまさしくコンプリートガイド!使った人がバイブルと絶賛する『金色のコルダ マエストロ養成講座』★







 18 いつも






 誤解されたくなかった。

 勘違いされたくなかった。

 ただそれだけの理由で、後を追いかけた。

 そうして服まで掴んで引き止めて、言った言葉はたった一言。




 ―――違いますから。




 なんて意味不明なんだろう。
 自分で思い出してもそう感じるのだから、相手はもっと怪訝に思っているに違いない。

 そう思っていた。
 だから、できればその日一日は会いたくなかった。
 怪訝な目で見られるのが嫌だったから。
 変な奴だと思われているかもしれないのを、確かめるのが嫌だったから。

 それなのに、そんな時にかぎって会ってしまって。
 避けることもできない状況で、だから仕方なく挨拶をして、話をしたのだけれど。

 相手はまったく、拍子抜けするぐらいに普通だった。
 ほんの欠片だって、不自然な様子なんて見せることもなく。

 そうして今も、その相手はなんとも自然な振る舞いで目の前にいる。
 練習棟の一室で。

 はピアノ越しに見える金澤をぼんやりと見つめた。
 二人っきりのレッスンを、事も無げに繰り広げる金澤。
 今日は火曜日で、週に二回の約束の金澤先生との個人レッスンの日で。

 あれほど会うのが気まずいと思っていたのに、どうやらそれは自分の考えすぎだったらしいことを昨日知った。
 先生は、土曜日にあったことなんてこれっぽっちも気にしていない様子で。だから今日のレッスンも、まったくのいつも通りで。

 それはにとっても願ったり叶ったりなはずなのに、なぜか心の中がすっきりしない。

 先生にとっては土曜日にあったことなんて、取るに足りない単なる生徒との馴れ合いの一つに過ぎなかったのだろうか。
 明らかにおかしい自分の行動も、気にとめる必要のないくらいどうでもいいことで。
 だから今も、こうしていつもと変わらない態度でいられるのだろうか。

 そう考えれば考えるほど、なぜだかの気分は落ち込んだ。
 先生が気にしていなかったことは、嬉しいはずなのに。



 どうでもいい―――。



 その言葉が刺のように胸に引っかかる。
 グランドピアノの鍵盤を叩く金澤を見やりながら、ぼんやりとそんなことを考え込んでいたは、そのとき不意に絡まった視線にひどく驚いた。
 楽譜を見ていた金澤がへ視線を移したのだ。


「………………」

「………………」

「………………」

「…………えっと?」


 こちらを見つめたまま何も言わない金澤に、は戸惑いながら首を傾げてみる。
 すると金澤の口からは、なんとも深い溜め息がひとつ。


「………聞いてなかったのか?」

「え?」


 問われた意味がわからなくて聞き返すと、再び呆れたように溜め息をつかれた。
 はますます首を傾げる。


「あの………」

「今俺が言ったこと、聞いてなかったんだな」

「あ…………」


 うっすらと眉間に皺を刻んだ金澤にそう言われて、はようやく自分が何をしたのかに気づいた。
 ピアノを弾いていた金澤。
 それは、自分にレッスンをしてくれるためのもので。
 もちろんそれには、なんらかの指示が着いてくる。

 アで歌えとか、何ページの何小節目から、とか。

 はその金澤の出した指示を聞き逃したのだ。


「す、すみません」


 その事実に気づくや否や慌てて頭を下げる。
 マンツーマンのレッスンで教師の指示を聞き逃す………いや、指示されたことにすら気づかないなんて。
 の胸に後悔の波が押し寄せた。
 それまでの痛みなんてもう影も形もない。

 いくら最近、集中力散漫になっていたからといって、ここまでひどいとは思ってもみなかった。
 恐縮しながら金澤を見れば、渋い表情でこちらを見やっていて。
 怒っているのか、雰囲気がいつもと違ってひどく鋭い。
 しかしそれも、自分がしたことを考えれば当然だと思った。
 あまりにも失礼なことをしてしまったのだから、怒られても仕方がない。

 はそう思い、落とされるであろう金澤の説教に身を硬くして待ったのだけれど。
 しかしそれは、いつまでたっても落ちてくる気配がなかった。
 しばらくの沈黙の後、聞こえてきたのはピアノの蓋を閉める静かな音で。

 ばたんと、くぐもった音が響く。

 そうして、僅かな沈黙の後。


「―――今日はもう、帰れ」

「え?」


 俯いていたは、金澤から発せられたその言葉に思わず顔をあげた。
 信じられない気持ちで金澤を見やる。
 もうこちらを見ていない金澤は、無表情に楽譜を片付けていて。


「あ、あの、先生! わたし…………」


 初めて見る金澤の様子に、は慌てて口を開いた。
 自分はそんなにも怒らせてしまったのかと。それならばもう一度謝罪しようと、そう思ったのだけれど。
 しかしそれは、金澤本人によって遮られる。


「お前さん、さっきの発声も全然身が入ってなかっただろ。今も俺の話は聞いてないし」


 これ以上やっても無駄だと言外に告げられて、はぐっと押し黙った。

 先生の言葉を聞き逃したのは自分。
 集中できていなかったのも本当。
 しかもそれは、今だけの話ではない。ここ最近ずっとそうなのだ。
 満足に練習すらできていないようなこの状態で、いったい何が言えるだろう。
 どんな言葉も、言い訳にしか聞こえない。

 は顔を俯け、ぐっと両手を強く握り締める。


「今のこの時期にそれじゃあ、話にもならんぞ? 頭冷やして、よく考えろ」


 ピアノの向こうに立つを見やって、金澤はいつになく厳しい口調でそう言った。
 は俯いたまま顔もあげられない。

 自分の非を認めている。
 レッスンどころか、日々の練習すらまともにこなせていなくて。
 一体自分は、何をやっているのだろう。


「…………すみませんでした」


 は俯いたまま頭を下げて、そのまま楽譜と鞄を掴んで逃げるように練習室を出て行った。
 押し開けられた重たい防音扉が、ゆっくりと音もなく閉ざされる。
 後に残された金澤は、それをただ見つめて。


「…………なにやってんだ、俺は」


 ぽつりと、そんなことを呟いた。
 ピアノの椅子に深く腰掛け、だらりと背もたれにもたれかかる。
 一度自分で片付けた楽譜に目をやって、くしゃりと前髪をかき乱した。

 怒ったわけじゃない。
 確かに今日のは、レッスンが始まってからずっとどこか上の空だったけれど。
 そんなことで怒るほど、自分は堅物ではないつもりだ。

 不調な時もあるだろう。
 昨日の時点で寝不足だったようだし、なんと言っても人間だ。
 いつもいつも、完全な状態でいられるわけじゃない。
 ましてやあいつはまだ学生で。
 しかも普通科にいるものだから、昼間はコンクールなどといったものから隔てられた環境におかれているはずで。

 普通科と、コンクールと。

 この異なる二つのフィールドを、彼女が今まで必死に行き来しているのを自分はずっと見てきたはずなのに。
 それなのに、いま己がとった行動はと言えば………。


「…………頭を冷やすのは、俺も同じ………か」


 誰に言うともなく声に出した。
 いつもの自分らしくない行動に、居心地の悪さを感じる。

 いつからだ?

 そう自問して。
 出ない答えが苛立ちをあおる。
 金澤はだらけた姿勢のまま、投げ出した足をぼんやりと見やった。

 自分らしい行動。自分らしい振る舞い。

 頭の中ではこんなにも明確に再現できるのに、なぜか最近上手くいかない。
 今しがたのことはもちろん、この前の土曜日だって、思えばらしくないことばかりだった。

 休日に思いがけず出会ってしまった教え子。
 本当ならなんだかんだと誤魔化して、厄介なことなど頼まれないうちにその場から立ち去るはずなのに。

 たまたま、会った教え子が間近に迫ったコンクールの参加者で。
 たまたま、自分が個人レッスンをしていたあいつだったから。

 練習を見てくれという頼みを聞いてやった。
 軽口を叩きながら、それでも演奏を聞いて、アドバイスをしてやって。
 それだけならよかったのに、その後に取った行動がいただけない。

 後から現れた土浦と楽しそうに喋るに。
 軽くからかいを含んだ言葉を投げかけて。
 顔を赤くしている生徒二人を置いて、その場を去った。

 あまりに唐突とも思えるタイミングだったが、それでもいつも通りに。
 そのまま公園を出て、どこへ向かうともなく歩き出して。
 それなのに、聞こえてきたあいつの声。


 先生―――と。


 呼び止められて、振り向いて。
 必死に否定しようとしているのをわかっていながら、わざと勘違いしたふりをして。
 そういうことにしたまま、その場を収めてしまいたかった。

 けれど、再開した歩みは再び引き止められる。
 シャツの背中を掴む、あいつの手。
 まっすぐにこちらを見上げて、少しだけ辛そうに、口にした言葉。


「………………」


 金澤は、ぼんやりと虚空を見つめていた視線を不意に瞼で遮ると、身体の中の何かを全て吐き出すように深く息をついた。



 ―――忘れてしまおう。

 忘れなければならない。




 真っ暗な瞼の裏で、そう繰り返す。




 公園での出来事も、あいつの取った行動も、言動も、なにもかも。

 憶えている必要はないのだと。




 真新しいたばこを胸ポケットから取り出して、喫煙なんてもっての外な練習室にもかかわらず、なんの戸惑いもなくライターの火を灯した。
 小気味良い着火音と共に、白い煙があたりに漂う。



 ただ単に、あいつはからかわれたから怒っただけで。
 いまどきの女子高生にしては珍しい、初心なやつだから。
 たとえ冗談でも付き合ってるとか好きだとか、そういうことを言われたくなかっただけなんだろう。



 濁った気体が肺の奥まで満たすように、わざと深く吸い込んだ。
 吐き出した煙の白さに目を細める。



 どうしてあれほど必死に否定しようとしたのかなんて、考えたりしない。
 あいつが言った言葉の意味なんて、考えたりしない。
 そう、考える必要などないのだ。








 ―――あいつは生徒で、俺は教師なのだから。





2005/07/10 up

復活して、初めての更新。
やっと動き出す二人の関係。


――― 勝手にうんちく なながつとおか ―――

  ★ 評価は五段階 ★

金色のコルダ マエストロ養成講座  ★★★★★
   皆さまおなじみの金色のコルダ。
   その ”完全攻略&完全データ集” です!
   『え〜、でも私、とっくにエキスパートガイド持ってるもん』
   『ていうか、もうスチル全部集まったし。見る必要ナッシング!』
   ―――と、お思いの方々もいらっしゃることでしょう。
   ところが!
   あなどっちゃあいけません。これは単なるゲーム攻略本ではないのです!
   ゲームの攻略、いわゆるコンプリートしたとされる一つの条件として、スチルの全収集が挙げられますね?
   乙女ゲームにおいて、この条件は必須です。これさえ満たせば、ゲーム内の九割方のイベントを見たことになるか
   らです。ところが、はたしてそれで、全てのイベントを見れたのでしょうか?
   ご存知のようにこの金色のコルダには、恋愛○段階という大きなイベントの他に、こまごまとしたイベントが多数用
   意されています。
   プレイヤーにとって、それは嬉しいことなのですが、いかんせん一体どういう条件でそれらが発生するのか。
   また、どれだけの数が用意されているのか。それらの予測がまったくつかないというのが現状でした。
   かく言う私も、『あの人のイベントを、一つたりとも見逃すものかッ!』 と、意気込んでいた時期はありましたが、い
   かんせんまったく予測のつかないものを、網羅するだけの技量も根性もなく………。
   すっかりゲームへの熱意は冷め、こうしてドリーム小説に没頭しているわけではありますが………。(笑)
   なんとこのマエストロ養成講座には、それらの情報が載っているのです!
   しかもなんと、 「恋愛対象5人同時攻略」 などというものがあるそうではありませんか!
   私は知りませんでしたよ、ええ。全然まったくもって。そんなものがあるなんて。七人攻略も夢じゃないらしいですね?
   そうしてなんとこの本には、その情報まで載っているというのです!
   私が一番惹きつけられるのは、二人以上を同時進行させた時に見れるあの嫉妬イベントについての情報です
   な! ぜひ見たい、なんとしても見たい、死ぬほど見たい………。
   再びコルダ熱が燃え上がる気配がいたします。(爆)
   どうやらイベントのセリフ等は冒頭部分のみ掲載という状態なようですが、そのほうが見る楽しみが倍増ですよね。
   ていうか、先にバラすようなことはしないで下さい。
   やりこみプレイや完全データ、ディープな攻略法(笑)など、40種類の講座が収録されているこの一冊。
   なぜもっと早く発売してくれなかった、ルビーパーティ!? と叫びたいのは山々ですが。
   とにかくオススメです。


幕末恋華・新撰組  ★★★★☆
   トップページでも紹介している、『うるるんクエスト 恋遊記』と同じ3Dの作品。
   本格派歴史系恋愛アドベンチャーですね。
   史実に沿った事件が起こる中で、女性隊士として新撰組に所属することになった主人公。
   時代の荒波に翻弄されながらも、刀を取り、懸命に戦い生き抜いていくのです。
   まさしくゲーム版ドリームですな。
   なにぶん新撰組ですから、どうやったって悲恋になるだろうってキャラはいますが、訪れたEDに感動することは請
   け合いです。
   絵柄も綺麗ですし、声優陣も豪華なメンバーが揃っているので満足できると思いますよ?(しかもフルボイス)
   ただ、D3という会社の方針として、『安価で攻略も簡単なものを』という目標? 理念? の元に製作された物です
   から、攻略は簡単です。
   人によっては物足りなさを感じてしまうかも?
   そういった点では初心者向きですかねぇ。
   ですが、近藤勇や沖田宗司、土方歳三などと、時代に全てを捧げて一心に生き、けれどもその一方で、どうするこ
   ともできずに湧き上がる暖かな思い。
   これはかなり胸にきます。
   現代に生きる私たちには予想できない、様々な人間模様が用意されているかも。
   個人的にはおすすめですが、やはり攻略の難易度が低いことを踏まえて、星は四つ。


New!星の王女3 〜天・地・人の創世記〜  ★★★★★
   業界初の女性向18禁恋愛アドベンチャー第三弾!
   なんと今度は全年齢対象の、健全版として帰ってきた!?
   ちょっとびっくりな展開ですが、安心してください、大丈夫です。(何がさ)
   たしかにこの『星の王女3』は全年齢を対象としたソフトウェアと表記されていますが、
   もちろんちゃんと18禁版も用意されています。
   今度の舞台は神話の世界。
   絵もストーリーもグレードアップして、かなり満足度は高いです。
   さすがに三度目ともなると、それまでの問題を解消してゲームとしての完成度も上がっていますね。
   今度は、これまでの『星の王女1、2』のように選択肢を選んでいくだけのものではなくて、ゲーム度もランクアップ。
   そして画像の綺麗さはさることながら、BGMの成長ぶりにも目を見張ります。
   攻略対象のキャラは、幅広い年齢層を用意。
   見た目もプリティな少年(耳とんがってますけど)から、ナイスミドルまで(かなり管理人好み)盛りだくさん!
   いろんな人に楽しんでもらえるよう、企画されているようです。
   普通にゲームを買うと健全版なので、
   18禁版を楽しもうと思う人は、それと一緒に18禁対応ディスクを買わないといけないんですが、
     二枚あわせても前回の価格とさほど変わりません。
   ちょっと高くなってるかな? でも、内容を考えれば許容範囲ですね。
   やはり18禁となると市場が限られてしまうようで、今回の健全版作成は美雷さんの市場開拓が目的なようです。
   まあ、世間には18禁と聞いただけで思わず尻込みしてしまう方もいらっしゃるでしょうしねぇ。
   管理人はまったく全然OKな人間ですが。
   乙女の恥じらいなんて、とうの昔に焼却処理いたしましたとも!
   ていうか、いいじゃないか、18禁だって! 子孫繁栄の重要な過程をちょっとロマンチックに表現しただけじゃないか!
   自分たちだって、こういう営みの果てに生まれて来た存在さ!
   ………なーんて主張してみたりして。
   いや、まぁ、これには色々人それぞれにおっしゃりたいことがあるでしょうね。
   これは管理人の私的な意見ということで。
   とにかく、これまで18禁だからと尻込みしていたあなた! この機会に試してみてはどうでしょう。
   別に18禁対応ディスクを買わなくても、充分乙女ゲームとして楽しめる内容になっているので心配なし。
   つまりはそういうシーンがカットされてるだけですからね。
   キャラがとにかくカッコいいんです。ハマって下さい。
   18禁版で楽しむ時に使う、追加ディスクはこちら。(星の王女3 〜天・地・人の創世記〜 18禁対応追加ディスク)


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