13 約束
「よぉ大将、迎えにきたぞ。…………何やってんだ?」
くわえタバコのハボック少尉は、大型犬の下敷きになって唸っているエドを見下ろして呟いた。
てっきり資料に埋もれているものと思っていたのに、その予想は大きく裏切られたらしい。
うつ伏せのエドの上には上機嫌のケダモノが寝そべり、その傍には可愛らしいおさげの女の子が寄り添っている。
「いや、これは資料検索の合間の息抜きと言うかなんと言うか!」
我に返ったらしいエドが、がばりと起き上がってそんなことを口にするけれど。
「で、いい資料は見つかったかい?」
「……………」
タッカーの言葉に現状を思い出し、引きつった笑みを浮かべるしかない。
「あ、ハボック少尉だ」
「おお、お嬢。どこにいたんだ?」
戸口に立っていたハボックの脇を抜けて、もう一人の金髪がひょっこり姿をあらわした。
その手には、数冊の本が抱えられている。
それを手近な本の山に重ねて。
「うん、向こうの部屋の資料を見せてもらってたの。タッカーさん、これ、こっちに置いておいていいですか? ここの資料と比較したくて」
ハボック少尉の後ろにいたタッカーにむかって問い掛けた。
タッカー氏は、エドの様子に苦笑を浮かべながら頷く。
「ああ、かまわないよ。でも今日はもう遅いし、少尉さんも迎えに来てくれたから、また明日おいで」
その好意的な言葉に、は行儀よく頭をさげて礼を言った。
しかし、それに反応したのはニーナの方で。
「お姉ちゃんたち、また来てくれるの?」
期待に満ち満ちた顔でやアルの顔を見上げる。
もちろん、その瞳に抗えるはずがなく。
アルはその巨体をかがめて、ニーナの顔を覗き込んだ。
「うん。また明日遊ぼうね」
本来の目的は別なのだけれど、これに関してエドやが文句を言うことはない。
一層嬉しそうな顔をしているニーナに手を振って、アルとは、すっかり疲れ果てた様子でふらふらと先を行く兄の背中を追いかけた。
しかし、踵を返したの服の裾が後ろからつんと引っ張られ、は足を止める。
後ろを振り返ってみれば、笑顔のままのニーナがこちらを見上げていて。
「きっとね」
念を押すその言葉に、は優しい笑みを浮かべ、おもむろに膝を折ってニーナの目の前にしゃがむと、彼女の小さな小指に自分のそれを絡ませた。
軽く上下に揺らしてやる。
「約束。また明日ね」
子供らしい約束の儀式をして、は今度こそ歩き出した。
少し距離が開いてしまったため、足を速めて後を追う。
しかしその途中、玄関に向かおうとしたの耳に、ふとハボック少尉とタッカー氏がなにやら話をしている声が飛び込んできた。
「――――もうすぐ―――査定―――」
ところどころ聞こえてくるそれがなんとなく気になって、は思わず歩調を緩める。
肩越しに振り返ってみれば、いつものように軽い調子で話しているハボックと、先ほどまでとはどこか様子の違うタッカーの姿。
の頭の中で、タッカーのその表情が昼間物置で見たそれと重なった。
どこか無機質な、冷たささえ感じさせるあの………。
「おーい、。何してんだ、早くしろよ」
しかしそのの思考は、前方からかけられたエドの声によって途中で遮られてしまった。
はっとして、少し先で自分を待っている兄弟の方を振り返る。
「あ、うん。すぐ行く」
はそう答えると、タッカー氏の様子にどこか引っ掛かりをおぼえながらも、兄弟たちに呼ばれるままに再び歩き出したのだった。
*
「しっかし、あんたらも相変わらずだな」
迎えによこした軍の車を運転しながら、ハボック少尉が後部座席の兄妹たちにそう話し掛けた。
思い思いに車に揺られていた三人は、きょとんとした顔をする。
「なんだよ、少尉。いきなり」
向かい合わせに座席のある車両後部で、弟妹二人と向かい合って座っていたエドが、身体をよじってそちらに身を乗り出した。
助手席の背もたれに肘をかけ、随分と行儀の悪い格好だ。
ハボックはそれをちらりと横目で見ながら、咥えていたたばこを口から離す。
「いやー、どっちが上か下かわかんないなぁと」
「はぁ?」
それを聞いたエドは、ますますわからないという顔をした。
ハボックは前を注視したまま、窓の外に灰を落として。
「ほれ、お嬢のほうが大将よりしっかりしてんだろ? 身長じゃあアルのがあきらかにでっかいし」
なぁ? とのんきに同意を求めたハボックの後ろで、エドはビシリと固まり、アルとはあたふたと慌てた。
不用意にもエドの禁句に触れてしまったハボックは、遅ればせながらそれに気づき、あ、と口元を押さえたけれど。
時はすでに遅く。
「誰が豆粒ドちびかーッ!」
「おわぁ!?」
エドの怒りの爆発と共に、車体は大きく左右に揺れた。
ハンドルを握るハボックが、必死で軌道を修正する。
「エ、エドっ、落ち着いて!」
「兄さん、危ないよ!」
激しい揺れにふらつきながらも、弟妹たちは怒れる兄を宥めるため、懸命にすがり付いて訴えた。
そのかいあってか、エドの怒りはなんとかなりをひそめてくれる。
後部座席での騒動を背中で聞きながら、揺れる車体の安全確保に奮闘していたハボックだったが、後ろが落ち着いたのを見計らうと、悪いと小さく謝罪した。
はたしてそれがエドに対しての謝罪か、それともとばっちりをうけたやアルに対しての謝罪かはわからなかったが、とにかくその場はなんとか落ち着く。
エドはまだ不機嫌そうな顔をしていたがそれ以上怒ることはなく、無言で流れる景色を見やり、それにアルとはやれやれとばかりに溜め息をついた。
本当にこれでは、どちらが上か下かわかったものではない。
ともあれ、車内には元の平和が戻ってきたのだけれど。
「……………」
「どうかしたの、姉さん? さっきから元気ないみたいだけど」
不意にアルフォンスが、隣に座っていたに首を傾げた。
アルの言葉に、エドものほうを見る。
窓の外を眺めていたの瞳は、どうやら景色を写していたわけではないらしい。
エドとアルの視線を受け、はふと車内に意識を戻す。
「う、ん。ちょっとね…………考えごと」
顔はこちらを向いたものの、意識はまだ思考の内に沈んでいるのか、の返答は曖昧だ。
けれど二人の兄弟は気にした様子もなく、いつものように話し掛けた。
「考えごと?」
「気になる文献でもあったのか?」
こうして外から干渉してやれば、の思考に自然と自分たちの存在が組み込まれていくことを知っている。
それは逆もまた然りで、己の思考の海に沈んでしまいやすい兄妹たちの間で自然発生した、暗黙の了解だ。
そうして案の定、虚空に当てられていたの瞳は、次第にエドやアルを映しだした。
「ん、いや、そういうわけじゃないんだけど。ただ、ちょっと気になって…………」
「なにが?」
再び沈黙して思考を続けようとしたに、アルが首を傾げて先を促した。
そうされることで、はようやく思考を口にする。
「人語を解する合成獣のこと………。査定の時、たった一言『死にたい』って言ったって………」
「ああ、そんでそのまま何も食わずに死んじまったんだろ? 合成獣が言葉を喋るなんて、ちょっと信じらんねぇけどな」
「合成獣研究でも初めての成果だったんでしょ。タッカーさん、それで国家資格を取ったんだよね。でも姉さん、それがどうかしたの?」
エドやアルの言葉を耳に入れながらも、はまだ考え込んでいるようだ。
しかし、今度は一人で黙り込んでしまうことはなかった。
「死にたいなんて感情は、本能をつかさどる大脳辺縁系にはありえない衝動だよ。大脳新皮質が比較的発達した動物の中でも、特に人間……それも正常な精神状態では働き得ないはずの感情なのに、それを合成獣が口にするなんてあり得るのかな」
がそう言って顎に手を当てる。
合成獣研究は専門ではないけれど、一時期そちらの方面の研究書を読みふけったことがあった。
「練成の過程で大脳新皮質を発達させることにでも成功したんじゃないのか」
エドがそう言ってを見たが、それにも気づいていない様子では首をひねる。
「練成前の動物たちが元々持ち合わせていたものを、練成後の固体が上回る? でもそれじゃあ…………」
過去に得た知識と、タッカー邸の資料室で見た書物の内容。
そして、物置だとタッカーが言ったあの部屋で見た紙が、の頭に引っかかっている。
「難しいことはよくわからんが、キメラってのはあれだろ。種類の違う動物を合体させたやつ。それって、元の動物よりも強くなってたりするもんじゃないのか?」
運転をしながら後ろの会話を聞いていたハボックが、バックミラー越しにの様子を窺って言った。
だがそれに答えたのはエドの方で。
「それは練成前のそれぞれの固体の優れた能力を故意に取り出して合体させた結果なんだ。合成獣研究ってのは元々それが目的で始まったんだよな。種の違う動物がそれぞれ持つ特徴を合わせて、複数の能力が発達した生物を生み出す。つまりは良いとこ取りして、一つにしちまおうってわけだ」
エドの説明は随分と乱暴だったが、要点は抑えていたのでアルもも何も言わなかった。
ハボックは、ほ〜……と、わかったんだかどうなんだかわからない反応を返す。
「ま、俺たちも合成獣は専門じゃないからな。特殊な練成の方式を見つけたか、なにか他の要素があるのか………。興味はあるけど、その発見のおかげで国家資格を取れたってんだから、簡単には教えてくれねぇだろうなぁ」
また等価交換とか言われても、それほど価値のある情報をごろごろ持ち合わせているわけではない。
エドとがそれぞれもつ査定用の研究ノートをひっくり返せば何かしら出てくるだろうが、ただ好奇心のためだけに自分の手の内をほいほい晒してしまうのは気が引けた。
ましてやそれが、自分たちが求める人体練成と関係のないものであればなおさらだ。
「明日、タッカーさんに聞くだけ聞いてみたら? もしかしたら教えてくれるかもしれないよ」
「…………うん。そうだね」
まだ何かしら考えているようだったは、アルに顔を覗き込まれてうっすらと微笑んだ。
初登場のハボック少尉。
彼には並々ならぬ愛があったりなかったり………。
どうでもいいけど、なかなか話が進まないこの連載。
New!鋼の錬金術師3 神を維ぐ少女
★★★★★
第一作『翔べない天使』、
第二作『赤きエリクシルの悪魔』に続く、第三作目のPS2ソフトです。
アクションRPGです。
さすがスクエア・エニックスですね。
回を追うごとに着実にレベルアップしてます。
前作までにあったストーリーやゲームシステムの問題点を克服したこの作品は、皆さん評価が結構高め。
スートーリーが完全オリジナルというところも高評価の要因かもしれません。充実度はかなりあがってます。
最も特筆すべきはやっぱり、今まで動かすことのできなかったアルの操作が可能になったということ。
プラス、タッグバトル機能の追加でしょう!
これまではエドしか操作することができず、アルフォンス好きにはちょっぴり寂しかったのではないでしょうか。
それが今回は、アルが動く。アルを動かせるんですよ、お嬢さん!(笑)
「三作目にしてようやくだよ、兄さん!」
なんて、アルの目が輝いていそうですね。
あとはヒロインの存在ですか。
彼女に渡すプレゼントによって、色んなイベントを見ることができたり、ストーリーの分岐が多少変わったりと、
細かい楽しみも用意されてますね。
とにかく、全体的に前回よりもレベルアップしていてやりごたえは充分。
あいかわらずストーリーも感動できるし、ゲームシステムは充実してるし、かなり満足が期待できます。
わたし的には、前回よりもムービーが減っていたのが残念でしたね。
ですが、2と3とどっちがいい? と訊かれればわたしは断然3を押します!
なんというか、ストーリーがかなりいいんですよ。
原作ハガレンの世界観とはちょっと外れた感が無きにしも非ずですが、おもしろいのでオールOK。
やりやすさも、改良された分3のほうが上ですしね。
初心者さんにも楽しめるんじゃないでしょうか。
前作の問題点をここまで克服したスクエニさんの心意気に、評価は星五つということで。
星の王女3 〜天・地・人の創世記〜
★★★★★
業界初の女性向18禁恋愛アドベンチャー第三弾!
なんと今度は全年齢対象の、健全版として帰ってきた!?
ちょっとびっくりな展開ですが、安心してください、大丈夫です。(何がさ)
たしかにこの『星の王女3』は全年齢を対象としたソフトウェアと表記されていますが、
もちろんちゃんと18禁版も用意されています。
今度の舞台は神話の世界。
絵もストーリーもグレードアップして、かなり満足度は高いです。
さすがに三度目ともなると、それまでの問題を解消してゲームとしての完成度も上がっていますね。
今度は、これまでの『星の王女1、2』のように選択肢を選んでいくだけのものではなくて、ゲーム度もランクアップ。
そして画像の綺麗さはさることながら、BGMの成長ぶりにも目を見張ります。
攻略対象のキャラは、幅広い年齢層を用意。
見た目もプリティな少年(耳とんがってますけど)から、ナイスミドルまで(かなり管理人好み)盛りだくさん!
いろんな人に楽しんでもらえるよう、企画されているようです。
普通にゲームを買うと健全版なので、
18禁版を楽しもうと思う人は、それと一緒に18禁対応ディスクを買わないといけないんですが、
二枚あわせても前回の価格とさほど変わりません。
ちょっと高くなってるかな? でも、内容を考えれば許容範囲ですね。
やはり18禁となると市場が限られてしまうようで、今回の健全版作成は美雷さんの市場開拓が目的なようです。
まあ、世間には18禁と聞いただけで思わず尻込みしてしまう方もいらっしゃるでしょうしねぇ。
管理人はまったく全然OKな人間ですが。
乙女の恥じらいなんて、とうの昔に焼却処理いたしましたとも!
ていうか、いいじゃないか、18禁だって! 子孫繁栄の重要な過程をちょっとロマンチックに表現しただけじゃないか!
自分たちだって、こういう営みの果てに生まれて来た存在さ!
………なーんて主張してみたりして。
いや、まぁ、これには色々人それぞれにおっしゃりたいことがあるでしょうね。
これは管理人の私的な意見ということで。
とにかく、これまで18禁だからと尻込みしていたあなた! この機会に試してみてはどうでしょう。
別に18禁対応ディスクを買わなくても、充分乙女ゲームとして楽しめる内容になっているので心配なし。
つまりはそういうシーンがカットされてるだけですからね。
キャラがとにかくカッコいいんです。ハマって下さい。
18禁版で楽しむ時に使う、追加ディスクはこちら。(星の王女3 〜天・地・人の創世記〜 18禁対応追加ディスク)
ふしぎ遊戯 玄武開伝 外伝 〜鏡の巫女〜
★★★★★
あのアニメや漫画、小説で大人気となった『ふしぎ遊戯』がついにゲーム化するそうです!
ずっとゲーム化を望む声があったらしく、今回ついにゲーム化に踏み切ったとか。
朱雀編ではなく、現在連載中の玄武編なのですが、主人公(つまりはあなた)はオリジナルキャラとして登場。
多喜子や七星士たちと物語を進めていくようです。まさしくゲーム版のドリーム!
ただ、連載を読んでいる人はわかると思いますが、攻略対象となる七星の数は少なそう。
だってまだ全員揃ってませんよね?
それに、ふしぎ遊戯はけっこう漫画の中でカップリングの妄想が働きやすいので、そういう人には抵抗があるかも。
でも、それを許せる人はけっこう期待してよいのではないでしょうか。
人気漫画のゲーム化なので、メーカーも中途半端なことはしないんじゃないかなと思います。
声優さんも有名どころを押さえてますし、その点は安心できます。
ゲーム専用のキャラクターが随分増えているようなので、それを目当てにしてもよさそう?
期待を込めて星五つ!