12 破片
「エド、危ない!」
と同じく、尋常じゃない集中力を持つエドワードの意識を本の世界から呼び戻したのは、自分の片割れのそんな叫びだった。
「あ?」
何事かと顔を上げ、声のしたほうを振り向く。
しかし、視界いっぱいに広がったのは、毛むくじゃらの物体で。
「ぎにゃ―――っ!!」
突然降りかかってきた重圧になす術もなく、の忠告も虚しくエドは無残にも押しつぶされることとなった。
毛むくじゃらの物体ことアレキサンダーは、至極満足げな顔でエドの上に腹ばいになっている。
「…………だ、いじょぶ? エド」
兄のその惨状に、引きつり笑いを浮かべるしかない。
「あーあ。兄さん、すっかり気に入られたね」
ニーナを肩車してあらわれたアルがそう呟けば、犬の下からエドはそちらを睨みつけて。
「あーあじゃねぇよ! 資料も探さねーでなにやってんだ、おまえら!」
ずいぶんと下方から自分たちを責める兄に、とアルは一度顔を見合わせて、おもむろに兄を見下ろすとへらりと笑ってみせる。
「いやぁ、ニーナ、遊んでほしそうだったから」
「エドも遊ぶ?」
弟妹のそんなのんきな物言いに、エドはピキリと額に青筋を立てた。
拳を握り締めて呻く。
「なごむなよ」
なんとか自力で犬の腹の下から這い出してきたエドは、その場にあぐらをかいて座り込んだ。
犬の身体が大きいのか、それともエドの身体が小さいのか。どっちもどっちなのだが、とにかくちょうど同じ高さに二人の顔があって。
「アレキサンダーもお兄ちゃんと遊んでほしいって」
「―――っ!」
ニーナのその言葉を肯定するように、アレキサンダーの大きな舌が、べろんべろんと豪快にエドの顔を嘗め回した。
その様子に、は思わず口元を覆い、何とか吹き出すのをこらえる。
「…………はい」
口元に手を当てたまま、震える声でハンカチを差し出した。
それを受け取ったエドは、顔をふきながら口の端を無理やりに引き上げて。
「ふっ………この俺に遊んでほしいとはいい度胸だ」
あいかわらず額に青筋を立てたまま、ゆらりと立ち上がった。
アレキサンダーは嬉しそうな顔で、そんなエドを見上げている。
「獅子はウサギを狩るのも全力を尽くすと言う…………このエドワード・エルリックが、全身全霊で相手してくれるわ犬畜生めッ!!」
ばうわうと。
駆けていく犬の後を、すさまじい形相で追いかけるエドワード。
ニーナはアルの肩の上で笑っていて。
この場で誰が一番子供かと問われれば、もアルも同じように兄の後ろ姿を指差すことだろう。
兄の威厳とやらは、すでに藻屑と成り果てているようだった。
「あれ、姉さんどこ行くの?」
犬に遊ばれ……いやいや、犬と遊ぶエドを眺めていたが不意に踵を返したので、アルは首をかしげてそちらを向いた。
戸口に手をかけたまま、肩越しに振り返る。
「ん? ちょっとトイレ。それに、まだ読みかけで置きっぱなしのやつがあるから。後のことは任せたからね」
「え、ちょっと、姉さん!?」
言うだけ言って出て行ってしまったに、アルは慌ててその後を追おうとするけれど、の方が行動が速く。
アルが追いかけてくる前に、その扉を閉ざしてしまう。
「もー、姉さんってば、あんまり長時間読みすぎたらダメだって、いつも言ってるのに!」
アルは腰に手を当てて、姿を消してしまった姉に愚痴を零すのだった。
*
市内にあるタッカー氏の家は広い。
敷地が広ければ建物も大きく。
広さもさることながら建造自体も立派なのだが、いかんせん収納しきれなくなった研究材料や資料がそこここに見え隠れしているものだから、どことなくさびれて見えてしまうのがもったいない。
所用を済ませ一息ついたは、ニーナに教えてもらった道順を逆行しながらそんなことを考えた。
まぁ、奥さんが実家へ帰ってしまったというし、そうなると仕方のないことなのかも知れない。そういえば、自分たちの母もよく、テーブルに花を飾っていたなと思い出した。
出身地のリゼンブールは田舎だったので、ここよりももっと空は開けていたし、色もずっと透き通っていた。
(そういえば最近、連絡してないなぁ)
自分たちの幼馴染みやその祖母などは、まめに連絡を入れろと口すっぱく言ってたけれど、ついつい忘れてしまうのは愛がないからではない。
ただちょっと、資料やら文献やら、その他諸々にうつつを抜かしてしまうだけで。
怒っているかもしれないなとぼんやり考えながら、まぁ仕方ないかと簡単に結論付けてしまったは、資料室に戻る道すがら、ふと、一つの部屋の扉がわずかに開いていることに気づいた。
「……………?」
なんとなく、その部屋を覗いてみる。
そこにはやはり、これまで見てきた部屋と同じく、これでもかというほどに本やら何やらが詰め込まれていた。
今までも大概すごかったが、この部屋はそれに輪をかけてすごい。
昼間だというのに薄暗いのはどこもさほど変わらないが、人ひとりがようやく通れるかどうかというほどの狭い足の踏み場が残されているだけで、それ以外は全て本や資料で埋まっていた。
「…………すごい」
の口から呆れ半分の感嘆が漏れる。
もちろんその資料のたぐいの量の多さもそうなのだが、それよりもこの部屋の惨状がすごい。
まるでとりあえず押し込んでいるかのような、そんな乱雑さ。
これまではかろうじてジャンル別に積み上げられているようではあったけれど、この部屋に限ってはそうではないらしい。
はそっと部屋の中に足を踏み入れてみた。
ぐるりと辺りを見回してみる。
うっすらと埃をかぶっているところもあって、あまり使っていないのかもしれない。
不用意に身体を動かすことができないため、首だけをめぐらせてあたりを伺っていると、すぐ脇にあった書籍の山の間から覗いている一枚の紙片が目に止まった。
少し黄ばみ、よれてしまってはいるが、さほど古い物ではないらしい。
は何とはなしにそれを手にとり、ゆっくりと、山を崩さないように引き抜いた。
こういったことは昔からよくやっていたので、危なげがない。
手にした紙片は裏返っていて、はそれをひっくり返す。
(これは…………)
黄ばんだ紙面に走り書くように書き付けられた文字。いくつかの数式。
なんらかの練成の理論が、そこに記されていた。
は無意識の内にその内容を読み取ろうとする。
もう条件反射としか言いようがないだろう。意識しなくとも、の頭はそれらの内容から練成陣を組み立て始める。
しかし、の意識が完全に思考の海に捕らわれてしまう前に、その紙は後ろから伸びてきた手によって、ひょいと取り上げられてしまった。
「―――! あ、タッカーさん………」
驚いて振り返れば、そこにいたのはこの家の主で。
紙片を手にしたまま、反射する眼鏡越しにを見下ろしている。
「…………こんなところで、なにをしているんだい?」
タッカー氏の声は、少し押し込められた静かなものだった。
その表情は、眼鏡のレンズに遮られて読み取れない。
はわずかに腰を引きながら、上目づかいに彼を見上げる。
「すみません、勝手に入ったりして。ちょっとお手洗いをお借りしたんですけど、この部屋の戸が開いていたもので、つい…………」
申し訳なさそうにそう謝罪したのだが、タッカーからの反応はなく。
彼は、手の中の紙に目を落としていた。
そしておもむろに口を開く。
「…………中身を読んだのかい?」
「え? あ、いえ、ちらっと見ただけで、内容までは………」
が首を横に振ると、タッカー氏は紙片を折りたたみ、無造作に胸ポケットへと押し込んだ。
次の瞬間にはにっこりと微笑んで。
「ここは、物置のようになっていてね。今ではもう使えない本や、書き損ねた論文なんかを押し込んでいるんだよ」
そう言うと、先に部屋を出てを促した。
それにしたがって部屋を後にする。
するとタッカーは、今度は開かないようにとの思いからか、心持ちしっかりと扉を閉ざした。
「ここには、君たちの役に立てるような物はないと思うよ。どれも古くて使い物にならないものばかりだからね」
にっこりと笑って。
先ほどまでのどこか無機質な印象は、もう窺えない。
はそれに違和感を感じながらも、再び謝罪を口にした。
「本当にすみませんでした」
「いや、かまわないよ。戻り方はわかるかい?」
穏やかに尋ねてくるタッカーに笑顔で答え、はもと来た道を再び資料室へ向かって歩き出すのだった。
久方ぶりの鋼更新。
ヒロイン、かなりゴーイングマイウェイ。
New!鋼の錬金術師3 神を維ぐ少女
★★★★★
第一作『翔べない天使』、
第二作『赤きエリクシルの悪魔』に続く、第三作目のPS2ソフトです。
アクションRPGです。
さすがスクエア・エニックスですね。
回を追うごとに着実にレベルアップしてます。
前作までにあったストーリーやゲームシステムの問題点を克服したこの作品は、皆さん評価が結構高め。
スートーリーが完全オリジナルというところも高評価の要因かもしれません。充実度はかなりあがってます。
最も特筆すべきはやっぱり、今まで動かすことのできなかったアルの操作が可能になったということ。
プラス、タッグバトル機能の追加でしょう!
これまではエドしか操作することができず、アルフォンス好きにはちょっぴり寂しかったのではないでしょうか。
それが今回は、アルが動く。アルを動かせるんですよ、お嬢さん!(笑)
「三作目にしてようやくだよ、兄さん!」
なんて、アルの目が輝いていそうですね。
あとはヒロインの存在ですか。
彼女に渡すプレゼントによって、色んなイベントを見ることができたり、ストーリーの分岐が多少変わったりと、
細かい楽しみも用意されてますね。
とにかく、全体的に前回よりもレベルアップしていてやりごたえは充分。
あいかわらずストーリーも感動できるし、ゲームシステムは充実してるし、かなり満足が期待できます。
わたし的には、前回よりもムービーが減っていたのが残念でしたね。
ですが、2と3とどっちがいい? と訊かれればわたしは断然3を押します!
なんというか、ストーリーがかなりいいんですよ。
原作ハガレンの世界観とはちょっと外れた感が無きにしも非ずですが、おもしろいのでオールOK。
やりやすさも、改良された分3のほうが上ですしね。
初心者さんにも楽しめるんじゃないでしょうか。
前作の問題点をここまで克服したスクエニさんの心意気に、評価は星五つということで。
星の王女3 〜天・地・人の創世記〜
★★★★★
業界初の女性向18禁恋愛アドベンチャー第三弾!
なんと今度は全年齢対象の、健全版として帰ってきた!?
ちょっとびっくりな展開ですが、安心してください、大丈夫です。(何がさ)
たしかにこの『星の王女3』は全年齢を対象としたソフトウェアと表記されていますが、
もちろんちゃんと18禁版も用意されています。
今度の舞台は神話の世界。
絵もストーリーもグレードアップして、かなり満足度は高いです。
さすがに三度目ともなると、それまでの問題を解消してゲームとしての完成度も上がっていますね。
今度は、これまでの『星の王女1、2』のように選択肢を選んでいくだけのものではなくて、ゲーム度もランクアップ。
そして画像の綺麗さはさることながら、BGMの成長ぶりにも目を見張ります。
攻略対象のキャラは、幅広い年齢層を用意。
見た目もプリティな少年(耳とんがってますけど)から、ナイスミドルまで(かなり管理人好み)盛りだくさん!
いろんな人に楽しんでもらえるよう、企画されているようです。
普通にゲームを買うと健全版なので、
18禁版を楽しもうと思う人は、それと一緒に18禁対応ディスクを買わないといけないんですが、
二枚あわせても前回の価格とさほど変わりません。
ちょっと高くなってるかな? でも、内容を考えれば許容範囲ですね。
やはり18禁となると市場が限られてしまうようで、今回の健全版作成は美雷さんの市場開拓が目的なようです。
まあ、世間には18禁と聞いただけで思わず尻込みしてしまう方もいらっしゃるでしょうしねぇ。
管理人はまったく全然OKな人間ですが。
乙女の恥じらいなんて、とうの昔に焼却処理いたしましたとも!
ていうか、いいじゃないか、18禁だって! 子孫繁栄の重要な過程をちょっとロマンチックに表現しただけじゃないか!
自分たちだって、こういう営みの果てに生まれて来た存在さ!
………なーんて主張してみたりして。
いや、まぁ、これには色々人それぞれにおっしゃりたいことがあるでしょうね。
これは管理人の私的な意見ということで。
とにかく、これまで18禁だからと尻込みしていたあなた! この機会に試してみてはどうでしょう。
別に18禁対応ディスクを買わなくても、充分乙女ゲームとして楽しめる内容になっているので心配なし。
つまりはそういうシーンがカットされてるだけですからね。
キャラがとにかくカッコいいんです。ハマって下さい。
18禁版で楽しむ時に使う、追加ディスクはこちら。(星の王女3 〜天・地・人の創世記〜 18禁対応追加ディスク)
ふしぎ遊戯 玄武開伝 外伝 〜鏡の巫女〜
★★★★★
あのアニメや漫画、小説で大人気となった『ふしぎ遊戯』がついにゲーム化するそうです!
ずっとゲーム化を望む声があったらしく、今回ついにゲーム化に踏み切ったとか。
朱雀編ではなく、現在連載中の玄武編なのですが、主人公(つまりはあなた)はオリジナルキャラとして登場。
多喜子や七星士たちと物語を進めていくようです。まさしくゲーム版のドリーム!
ただ、連載を読んでいる人はわかると思いますが、攻略対象となる七星の数は少なそう。
だってまだ全員揃ってませんよね?
それに、ふしぎ遊戯はけっこう漫画の中でカップリングの妄想が働きやすいので、そういう人には抵抗があるかも。
でも、それを許せる人はけっこう期待してよいのではないでしょうか。
人気漫画のゲーム化なので、メーカーも中途半端なことはしないんじゃないかなと思います。
声優さんも有名どころを押さえてますし、その点は安心できます。
ゲーム専用のキャラクターが随分増えているようなので、それを目当てにしてもよさそう?
期待を込めて星五つ!